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第65号:CMMIモデルの勉強方法

2009年08月25日

  • CMMI標準教本第2版が発売されています

    CMMIモデルV1.2が本として2009年7月27日に発行されました。基本的にはSEIのウェブサイトで公開されているモデルの内容なのですが、何が違うのかを簡単にご紹介しましょう。

    1.「視点」が追加されている

    これはWatts S.Humphreyさんをはじめ、多くの著名人のCMMIやプロセス改善に関するエッセイのようなものです。モデルの枠組みでは語られていないようなテーマもありますので、参考になるのではないでしょうか。

    2.第6章に事例研究がある

    これはレイセオン社のパサデナ事業所がサービスの提供にCMMIを導入した時の話です。この事業所は『典型的には顧客が主要なプロジェクト開発者として行動し、レイセオン社は下請け契約者として特に重要なサービスを提供する』立場で活動しているため、CMMIモデルをどのように自分達のプロセスに適用するべきかに多くの課題を持っていました。その課題をどのように解決し、成熟度レベル3を達成したかというストーリーが紹介されています。

    その中には「突然のひらめき」と題して、自分達のプロセスとCMMIとのマッピングについてこう考えればいいのだ、と思いついた点が4つほどあげられています。
    これらのひらめきによって、停滞していたモデルの実装に大きな進歩がみられたそうです。その内容については本を読んでいただくとして、同じように停滞している組織にとっては、そのひらめきが丁度当てはまったり、固定観念にとらわれている部分をほぐしてくれたりするかもしれません。

    3.各プロセス領域にTIPやHINT、X-REFが追加されている

    これらはモデル本文には記述されていない内容を補足したり、文字通り実装のヒントを提供したり、他の関連する情報のありかをしめしたりしてくれています。
    例えば「プロセスと成果物の品質保証」というプロセス領域では『PPQAは組織の目と耳とよく呼ばれる。』というTIPや『プロジェクトの早期からQAを開始せよ。』というHINTがあります。

    4.見やすく比較的携帯に便利

    SEIのウェブサイトで公開されているPDFを印刷してファイリングしたり製本したりしておられるかたもいるかもしれませんが、やはり本となっていると扱いやすいです。辞書のようにプロセス領域ごとの印もついています。結構な厚みと持ち歩くと腕が鍛えられそうなぐらいの重みはありますが、元々の情報量が多いので仕方ないでしょう。

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    ということで、これからCMMIを勉強しようという人だけではなく、既にモデルを読み込んでいるという人にも「ひらめき」をもたらしてくれるかもしれない便利な一冊だと思います。
    いつもながら、翻訳を担当されたJASPIC CMMI V1.2翻訳研究会の皆様には頭が下がります。お疲れ様でした。

    弊社で実施しているCMMI入門コースの教材も、次回からはこの本に切り替えますので、これを機会に是非ご参加下さい。

    【書名】CMMI標準教本 第2版 開発のためのCMMI 1.2版対応
    【著者】メアリー・ベス・クリシス、マイク・コンラド、サンディ・シュラム
    【訳 】JASPIC CMMI V1.2翻訳研究会
    【出版社】日経BP社
    【発行】2009年07月23日
    【ISBN】4822283968

    CMMIモデルの勉強方法

    CMMIを参考にしてプロセス改善を行う際に、プラクティスの意図がよく分からなくて苦労した経験が皆さんあるのではないでしょうか。CMMIモデルの中には普段あまり使用しないような用語が使われていたり、ひとつの単語に深い意味が凝縮されていたりするため、一読しただけではなかなか理解するのは難しいと思います。例えば、プラクティスの記述でよく使用されている「確立し保守する」という言葉には「文書化し使用する」という意味も内包しています。(用語集より)

    しかし、CMMIにまとめられたベストプラクティスの恩恵を受けるためには、CMMIのプラクティスの意図や、プロセス領域間の関係、プラクティス間の関係などを十分に理解して実装する必要があることは言うまでもありません。
    CMMIモデルの解釈を誤ったが故に、形式だけの無駄なプロセスなどを実装してしまうことは誰にとっても残念なことです。
    そこで、今回はCMMIモデルを理解するために、私が行った勉強方法をご紹介しようと思います。

    私が最初にCMMIモデルに触れたのは、まだコンサルティング部に入る前でした。
    以前からCMMIには興味がありましたが、独学で勉強を始めるには至らず、弊社で開催しているCMMI入門コースへ参加したことが始まりでした。入門コースでは、CMMIの概観を学ぶことができます。限られた時間で全てのプラクティスの意図を完全に理解することは難しいのですが、勉強を始める基礎としては必ず受けておいた方が良いでしょう。

    その後、まず最初にCMMIモデルをしっかり読み込みました。CMMIモデルはPDFで公開されていますので、私はプロセス領域毎に印刷して通勤時間などを使って読みました。CMMIモデルのPDFは英語版と日本語版が公開されているので、日本語版の表現でよく分からない場合などは、英語版も読んでみると意外と分かりやすく表現されていることもあります。

    当然この程度で十分に理解できるはずもないので、ここでの目的はどのプロセス領域にどのようなプラクティスがあるのかを頭に叩き込むことです。
    プラクティスの番号などを覚える必要はありませんが、どこにどんなプラクティスがあるかが把握できると、次にCMMIモデルを読みかえした時に「そういえばあのプロセス領域に関連するプラクティスがあった!」というような気づきの機会が得られます。これだけでも、プロセス領域毎の狭い視野から、プロセス領域を跨る広い視野へと理解の幅は大きく広がります。

    しかし、この段階ではCMMIモデルのどこに何が書いてあるかが分かるようになったものの、プロセスを定義したり、誰かに説明したりできるほどにはプラクティスの意図を理解できませんでした。そこで、次の勉強方法としてひとつひとつのプラクティスについて、自分なりの解釈を付けていきました。ポイントとしてはモデルの用語はできるだけ使わずに、普段使っている簡単な言葉で表現することです。頭で考えるだけではダメです。なんとなく理解したように思えても、文章に表そうとすると非常に難しく、サブプラクティスや導入説明、用語集などをよく読みながら、じっくり考える必要があります。誰かに説明するように意識して整理していくと、なぜその活動が必要なのか、どういう効果があるのかということが見えてきます。

    実際にこの方法でやるのは、非常に大変で根気が必要ですが、私の場合これによって、それまでバラバラに見えていたプロセス領域やプラクティスが、巧妙に連携していることを発見し、「CMMIって実によくできているなあ」と感心させられました。このように苦労し、発見し、感心して理解した内容はまず忘れることはありません。

    CMMIモデルには固有プラクティスだけでも173個のプラクティスがあるので、一人でやるのは難しいかもしれません。そのような場合はSEPGのメンバ内で担当のプロセス領域などを決めて、勉強会などの形でそれぞれの解釈を発表しあうというのも良いのではないでしょうか。

    当然全てを正しく理解することは難しく、間違った理解をすることもあると思いますが、自分なりの解釈を確立しておけば、他者の意見などを聞いて勘違いを是正するのは比較的容易です。
    他者の意見を聞く機会としては、上述のような勉強会やプロセス改善関係のカンファレンスに参加したり、コンサルタントに確認したり、市販の書籍なども参考にできると思います。

    これはあくまで私が個人的に有効だったと思う勉強方法なので、実は他にもっと良い勉強の仕方があるかもしれませんが、新たにSEPGメンバをトレーニングを行う際には参考の一助として頂ければ幸いです。