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第241号:理解度の尺度と評価方法: 研修受講者の理解度を平均する意味と有用性

2024年04月25日

  • 理解度の尺度と評価方法: 研修受講者の理解度を平均する意味と有用性

    トレーニングコースの有効性を評価するために、コース終了後に受講者に研修受講報告書を提出させ、理解度とか満足度とかを見ているところがよくあります。各受講者の理解度を数値で表現していることもよくあります。例えば、次のように。

    1)まったく理解できなかった。
    2)あまり理解できなかった。
    3)普通通り理解できた。
    4)十分理解できた。
    5)完全に理解でき仕事に活用できる。

    各受講者は「十分理解できた」と思ったら4と記入したり、「あまり理解できなかった」と思ったら2と記入したりします。

    受講者の理解度の値の平均を算出し、トレーニングコースの有効性の評価に使うところもあります。

    例えば、ある研修に10人が参加し、理解度4が3人、理解度3が5人、理解度2が2人だったので、合計すると4×3+3×5+2×2=31。平均して3.1。概ねよかったかなと判断していたりします。

    さて、このように理解度を平均することにどのような意味があるのでしょうか?

    一般的に測定値の尺度は次のように分けられます。
    ・名義尺度
    ・順序尺度
    ・間隔尺度
    ・比率尺度

    名義尺度は、データを分類するために使われる尺度で、単に区別するために数字を割り当てるものです。具体的な例として、以下のようなデータが名義尺度に該当します。

    性別: 1 = 男性、2 = 女性
    血液型: 1 = A型、2 = B型、3 = AB型、4 = O型

    名義尺度では、データにつけた数字は単にグループに属していることを示すだけで、数字の大小や順番には意味がありません。例えば、電話番号やIDも名義尺度に該当します。名義尺度の最頻値には意味がありますが、中央値や平均値を求めても意味がありません。

    001(イワン・ウイスキー)と002(ジェット・リンク)を足しても、003(フランソワーズ・アルヌール)になりませんし、003(フランソワーズ・アルヌール)と009(島村ジョー)の平均は、006(張々湖)ではありません。

    順序尺度は、ある特定の属性に注目してその順番をつけたもので、大小関係に意味があるものの、差や比には意味がない尺度です。具体的には次のような特徴があります。

    震度: 地震の大きさを表す震度は、人間の感覚に基づいて定められており、順序尺度です。例えば、「震度2より震度3のほうが揺れが強い」という主張は正しいですが、「震度4は震度2の2倍揺れている」や「震度4と震度3の差は震度3と震度2の差と同じくらい」と主張することはできません。

    アンケートの回答: 1:よい、2:ふつう、3:わるいといった順序を数字で表現したものも順序尺度です。最頻値や中央値には意味がありますが、足し算には意味がないため、平均値にも意味がありません。

    順序尺度は、データの順番やランキングを示す際に有用であり、大小関係に意味があることを考慮しながら分析や比較を行います。

    みなさんお馴染みのCMMIの成熟度レベルも順序尺度です。

    間隔尺度は、順序尺度での順番の違いをものさし上の間隔の違いとして数値化したもので、大小関係に加えて「差」にも意味がある尺度です。

    例えば、気温(℃)は間隔尺度に該当します。温度の差が意味を持ち、等間隔で分けられます。具体的には、「10℃と20℃の差は20℃と30℃の差と同じ」という主張は正しいです。しかし、「20℃は10℃の2倍熱い」と主張することはできません。

    間隔尺度と順序尺度の違いが分かりにくい場合は、1から2になるのと、2から3になるのが同じ量の変化なのかどうかを考えると理解しやすくなります。

    比率尺度は、間隔尺度において絶対的なゼロ点が存在し比率関係が満たされる場合で、大小関係に加えて「差」や「比」にも意味がある尺度です。

    例えば、長さや質量、年齢は比率尺度に該当します。これらのデータでは、ゼロ点(絶対原点)が存在し、比率を考えることができます。

    絶対原点があるため、ゼロは意味を持ちます。例えば、年齢について、「ちょうど20歳の人はちょうど10歳の人の2倍生きた」というように、比を考えることに意味があります。

    間隔尺度と比率尺度については、最頻値、中央値、平均値、いずれにも意味があります。

    さて、研修受講者の理解度は順序尺度です。平均に意味はあるでしょうか? また、この尺度はどのように扱うのが有用でしょうか?