川上がSEPGになったのは入社4年目半ば、夏休み直前のことだった。
それは突然のことだった。ほんの少し前まで、川上はまさか自分がSEPGになるとは思っていなかった。それまでは、野球部のマネージャーだったこともあるただの女子社員にすぎなかった。SEPGとは縁もゆかりもなかった。
ところが、思いもよらぬ事情からSEPGのメンバとなった。SEPGになった川上には、一つの目標があった。それは、標準プロセスを作成するということだった。彼女はそのためにSEPGになったのだ。それは夢などというあやふやなものではなかった。ただの仕事であった。
どうしたら標準プロセスを作成できるか、具体的なアイデアがあるわけではなかった。しかし川上は、それを全く気にしていなかった。なんとかなると単純に考えていた。彼女にはそういうところがあった。考えるより先に、まず行動するのだ。
第77号:もし初心者SEPGがはじめて標準プロセス作成にとりくんだら
2010年08月25日
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もし初心者SEPGがはじめて標準プロセス作成にとりくんだら
プロローグ
第1章 川上は標準プロセス作成に取り組んだ
はじめまして、川上と申します。私は入社4年目のSEです。私はある日突然、SEPGのメンバーに加わることになりました。今回は、その経験をもとにメルマガを執筆させていただきます。
一般的にSEPGの改善活動では、ギャップ分析を行い、弱みに基づいたアクションプランを作成した後、組織の標準プロセスやプロセス資産の作成や修正に取り掛かると思います。私が携わることとなった改善活動では、既にアクションプランの作成まで完了しており、そのため、私はいきなり最初から「標準プロセスの作成」という大仕事に取り組むこととなりました。
私はひとまず作業をスタートさせましたが、何から始めたら良いのか、何を考えなければならないのか分からず、悩む日々が続きました。しかしそんな状態だった私でも、ポイントを押さえることで、何とか標準プロセスを作成することができたのです。
そこで今回は、そのポイントをいくつかご紹介したいと思います。ポイント1.専門家のトレーニングを受ける
何から始めたらいいのか分からなかった私はまず、専門家であるベテランSEPGの方からトレーニングを受けました。ベテランSEPGからは、標準プロセスはどういう内容を含むべきか、どう書くべきか、何を参考にしたら良いか、などを教えて頂きました。そのおかげで何とか作業の方向性を見い出すことができました。
私はCMMIの入門コースも受講しましたし、アプレイザルの参加経験もあります。アプレイザルでも、組織プロセス重視(OPF)や組織プロセス定義(OPD)のトレーニングのエビデンスとして、CMMI入門コースの受講記録をよく見かけます。しかしSEPGとして作業するためには、それらの知識や経験に加えて、ISO、業務知識、豊富なSEPG経験など、多角的な知識や経験を必要とすることが分かりました。ポイント2.プロセスの構造を段階的に決める
標準プロセスはいろいろな要素を含みます。CMMIのレベル3を網羅する標準プロセスでしたら、計画策定や進捗管理などのプロジェクト管理、設計や開発などのエンジニアリング、品質保証や構成管理などの支援、組織の改善活動やトレーニングなどのプロセス管理、そして各プロセスの組織方針など、多岐にわたります。
どの要素をどう組み合わせていくかを考えずにいきなり細部を作成し始めてもすぐに行き詰ってしまい、また、全体的な整合性も取ることができません。
そこで、
まず、(1)標準プロセスの種類や構造などの全体構造を決め、次に、(2)その内部構造を決める段取りで進めました。
そうすることにより、全体像を把握し、以降の作業で大きく間違った方向へ進んでしまうことを防ぐことができました。
例えばこんな感じです。
(1) 標準プロセスの全体構造を決める
作成する標準プロセスの種類や構造などの大枠を決めます。
私の場合は、ギャップ分析の結果、業務の流れを踏まえた上で、関連する
CMMIのプロセス領域と対応させて決めていきました。
例)標準プロセスの集合
├─プロセスの組織方針
├─プロジェクト管理プロセス
├─エンジニアリングプロセス
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└─組織管理プロセス
(2) 標準プロセスの内部構造を決める
標準プロセスは、様々なプロセス要素によって構成されています。それら
は、サブプロセス、アクティビティ、タスクといった言い方をします。
私の場合は、内部構造としてプロセスに含まれるサブプロセスを定義し、
さらにその中の要素を分解していきました。
例)プロジェクト管理プロセス
├─[サブプロセス1]プロジェクト計画プロセス
│ ├─見積作成
│ ├─プロジェクト計画策定
│ └─計画レビュー
└─[サブプロセス2]プロジェクト管理プロセス
├─進捗管理
├─リスク管理
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また、標準プロセスの章立てとして、以下のような項目を盛り込むと、プロセスがどのように使われるかがより明確にできます。
例)章立ての例
目的、所有者、インプット、アウトプット、開始・終了基準、
手順、使用ツール、関連プロセス、テーラリングガイド、尺度ポイント3.プロセスの関連図を描く
プロセスの関連図を描くことで、プロセス要素間の関係や仕事の流れを視覚的に
表現することができます。そのため、標準プロセスの利用者がこの関連図を見ることで、仕事の流れをイメージしやすくなることが期待できます。
また利用者だけでなく、SEPG側にもメリットがあります。SEPG側のメリットとしては、「矛盾や漏れを見つけやすくなる」ことが挙げられます。私も実際、プロセス関連図を描くことで、標準プロセス同士の関連性が矛盾していることや、プロセス要素の漏れが発生していることなどに気付くことができました。
ポイント4.レビューする
標準プロセスを書き終えたら、レビューをします。
当然セルフレビューも行いましたが、見落としをしないために専門家のレビューも行うべきです。今回は、トレーニングを行って頂いたベテランSEPGの方にレビューに参加頂き、関連するCMMIのプラクティスの網羅性確認や、プロセス同士の矛盾点を洗い出して頂きました。そのおかげで、より精度の高い標準プロセスを作成することができました。
今回のご紹介は以上です。実際の作業では、プロジェクトが利用するテンプレートなどのプロセス資産もあわせて考えていきましたが、今回のポイント紹介では標準プロセスの説明だけに的を絞りました。一人でも多くの、標準プロセス作りで悩んでいらっしゃる方の参考になれば、たいへん幸いです。