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第56号:利害関係者を関与させよう

2008年11月25日

  • 利害関係者を関与させよう

    湿っぽい話なんですが、先日、身内に不幸がありまして、忌引き休暇をとって地元に1週間ほど帰省しておりました。この時、遺族として悲しみに沈んでいる最中ではありましたが、通夜や葬儀の段取り等の煩雑な事務作業をこなさねばならず、初めてのことで随分とうろたえました。結果的になんとか無事にとり行う事が出来たのですが。

    というのも、ウチの地元には「組合」という隣近所の人たちで構成された団体がありまして、いざ近所で不幸があると、組合員総出で手伝いをするというしきたりが昔からあるそうなんです。今回もお通夜や告別式での受付は誰がやるとか、会計は誰が担当するとか、賄いは誰がどんなタイミングでやるとかあっという間に決まっていきました。

    組合のこういったしきたりは、特に何かの文書にまとめられているわけではないと思うのですが、先祖代々、人から人へ伝承されてすでに習慣として馴染んだものになっており、かつ、組合員の顔ぶれもずっと一緒で各自が何をすべきか意思疎通が出来ているので、こんな風に素早く連携をとって物事を進められるんでしょうね。

    我が家の葬儀というプロジェクトは、こうしてつつがなく進行したわけですが、皆さんが普段参加されているプロジェクトでも、誰がそのプロジェクトに参加して、その人たちがどんな役割を持ち、どのように関与していくかを決め、そしてその関与を管理していくことが重要になると思います。

    CMMIでは、利害関係者の関与を計画し関与させることのプラクティスがいろいろなところに登場します。
    ・プロジェクト計画策定(PP) SP2.6 利害関係者の関与を計画する。
    ・プロジェクトの監視と制御(PMC) SP1.5 利害関係者の関与を監視する。
    ・統合プロジェクト管理(IPM) SP2.1 利害関係者の関与を管理する。
    ・GP2.7 直接の利害関係者を特定し関与させる。

    私の地元の組合と違い、プロジェクトの参加メンバがいつも同じ顔ぶれであることは、むしろ稀です。どんな人が今回のプロジェクトに参加し、それぞれがどんな役割を持っていて、どの活動にどんな関わり方をするのかをきちんと定義することが必要があります。

    利害関係者を特定した文書の例として体制図がありますが、体制図に参加者の名前が入ったものだけでは利害関係者の関与の計画としては不十分です。各参加者の役割や責任の記述を追加するなり、責任分担マトリックスといったもので役割を明確にする必要があるでしょう。そして、会議体の定義やコミュニケーション計画といったもので、関与する方法や頻度、参加者などを決めましょう。

    関与の計画を立てたら、計画を遂行する人々にレビューしてもらい、自分の役割を理解してもらった上でコミットメントを獲得しましょう。こうすることにより、各自が責任を持って計画を遂行することが可能になるでしょう。また、コミットメントを獲得した事項については、それが果たされるかどうかを監視することが必要です。関係のあるプラクティスは以下になります。
    ・プロジェクト計画策定(PP) SP3.1 プロジェクトに影響を与える計画をレビューする。
    ・プロジェクト計画策定(PP) SP3.3 計画コミットメントを獲得する。
    ・プロジェクトの監視と制御(PMC) SP1.2 コミットメントを監視する。
    ・統合プロジェクト管理(IPM) SP2.2 依存関係を管理する。

    都会の人間から見れば、一見煩わしく見えるご近所づきあいですが、冠婚葬祭や災害などでひとたびプロジェクトの形を取ったとき、利害関係者の関与の深さがプロジェクト進行を支えてゆくのだと実感した今回の帰省。関与の鍵を握るのはもちろんコミュニケーションの力に他なりませんが、プロジェクトの当事者でありながら利害関係者の輪から取り残されていた私を救ったのは、通夜の席で組合の方々と酌み交わした酒でした。「飲みニケーション」の力はやはり偉大ですね。

    だいたい月刊ブックレビュー

    【書名】プロセス改善ナビゲーションガイド ~ベストプラクティス編~
    http://tinyurl.com/65xpat

    【編者】情報処理推進機構ソフトウェア・エンジニアリング・センター
    【出版社】オーム社
    【発行】2008年2月12日
    【ISBN】978-4-274-50175-3

    【本の内容】
    第1章 効果的プロセス改善のための情報共有の必要性
    第2章 プロセス改善とベストプラクティス
    第3章 ベストプラクティス集

    【レビュー】
    改善活動をやっていると、「ふつうはどうするんだろ?」とか「他の会社ではどうやっているのかな?」と気になることがあると思います。

    CMMIはモデルですから抽象的です。そのため、どうやってプラクティスを実装していいのかわからないこともあるでしょう。CMMIには、「典型的な作業成果物」や「サブプラクティス」とか載っていますが、それでもまだまだ抽象的です。どのように実装すればよいのか、一番のヒントになってくれるのはやはり事例だと思います。

    本書には10件のベストプラクティスが載っています。ベストプラクティスといっても文字どおりのベストではなく、本書では「他組織が参考にし得る先進組織の実践」と捉えられています。

    そっくりそのまま使えることはないと思いますが、でも改善のヒントが得られるかもしれません。

    CMMIを使って改善をすすめているところは、定期的に評定を行っていると思います。評定で見つかった弱みに対して何らかの対策をとらなければならないわけですが、どうやればよいのか見当もつかないときもあると思います。そんなときに本書を使うのもよいでしょう。

    各事例にはどのプロセス領域に該当するのか載っています。共通フレーム2007のほうは表にまとめられていますが、CMMIのどのプロセス領域に該当するのか表にまとめたものは載ってないので、作ってみました。ご参考に。

        │事│事│事│事│事│事│事│事│事│事│
        │例│例│例│例│例│例│例│例│例│例│
        │1│2│3│4│5│6│7│8│9│10│
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    ML│REQM│ │ │ │ │ │●│ │ │ │ │
    2├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │PP │ │ │ │●│ │●│ │ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │PMC │ │ │ │●│ │●│ │ │●│ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │SAM │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │MA │ │ │ │●│●│ │ │●│ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │PPQA│ │ │●│ │ │●│ │ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │CM │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
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    ML│RD │ │ │●│ │ │ │●│ │ │●│
    3├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │TS │●│ │●│ │ │ │●│●│ │●│
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │PI │ │ │ │ │ │ │●│ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │VER │●│ │●│ │ │●│ │ │ │●│
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │VAL │ │ │●│ │ │ │ │ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │OPF │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
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     │OPD │ │ │ │ │●│●│ │●│ │ │
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     │OT │ │●│ │ │ │ │ │ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │IPM │ │ │ │●│●│ │ │ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │RSKM│ │ │ │●│ │ │ │ │ │ │
     ├──┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┼─┤
     │DAR │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
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    ML│OPP │ │ │ │●│ │ │ │●│ │ │
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     │QPM │ │ │ │ │●│ │ │●│ │ │
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    ML│OID │ │●│ │ │ │ │ │ │ │ │
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     │CAR │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │
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