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第45号:名前を付けてやる:「CMMIの手順書」!?

2007年12月25日

  • 名前を付けてやる:「CMMIの手順書」!?

    自社のプロセス改善に携わっている人達とお話ししていると、「現場が定義したプロセスを使ってくれない」という話になることがままあります。また「CMMIに従ってどんな意味があるのか?」といった疑問をぶつけられるという話も耳にします。みなさんの中にもこういった問題に頭を悩ませている方がいるかもしれません。

    確かにこれらはプロセス改善の初期段階(下手すれば終盤でも)出てくる典型的な課題かもしれません。プロセス改善を推進している人達が中心となって、様々なプロセスを文書化し、それらに従うために必要なテンプレートを作成し、一段落ついたと思ったときに魔の手が忍び寄ってくるのです。

    そういう状況に陥った組織で、現場の方にインタビューするとこんな表現をよく聞きます。
    「このプロジェクトはCMMIの手順に従ってやってます。」、
    「CMMIのテンプレートはこのフォルダにあります」、
    「当社ではCMMIの手順に従うことになっています」、
    等々。

    私は常々こういう状況にある組織に対しては、「それらは”CMMI”の手順ではなくて”みなさんの”手順なのです」と力説してきました。しかし理論的には分かって頂けたとしても実際の感情としてはなかなかすんなりと納得してもらえないことが多く、何かいい方法が無いかなと思っていました。

    ある日とある企業に伺ったところ、そこでは先程あげたようなプロセス資産に対してCMMIという言葉は一切使っていませんでした。どうしているのかというと、プロセス改善活動やその資産に「名前」を付けて、その名前で全てを管理していたのです。これにはなるほどと思わされました。

    プロセスを文書化し形あるものにした際に、それを組織に浸透させるための非常に重要なキーワードとして「愛着」があげられると思います。愛着があるからこそそれを使うことや、遵守すること、改善していくことに重要性を感じられるのです。しかし「CMMIの手順」という呼び方をしている時点で、それは自分達のものではなく、CMMIというモデルに合わせるために作られた仮想的なものという心理的なバリアが張られているのだと思われます。

    またCMMIという言葉を呼び名から消すことで、そのプロセス定義がよく分からない誰かから押し付けられたものではなく、自分の組織内で守らなければならないものであるということを受入れやすくするのではないでしょうか?

    もちろん私が言いたいことは、CMMIという言葉を使うなということではありません。CMMIはもはや、ソフトウェアエンジニアリングやシステムエンジニアリングの業界におけるプロセス改善の、世界レベルでのデファクトスタンダードと言っても過言ではない状況です。そういったものを取り入れて、世界レベルの基準をクリアするのだということは宣言しても一向に構わないでしょう。

    考えてみれば、何かペットを飼う時にそれを「ヨークシャーテリア」とか「スコティッシュフォールド」とか呼ぶ人はまずいないでしょう。ましてや「犬」と呼ぶ人は皆無でしょう。確かにそれは犬でありヨークシャーテリアであるかもしれませんが、そういった問題ではないのです。その血統書があっても、●●●に育ってしまうかもしれません。そうならないためには、関係する人たちの熱意であったり暖かい支援であったりが必要なのです。

    この他に愛着を持つための方法としては、これもペットと同様「育てることに参加する」というものもあると思います。生まれたての子犬から育てていくのと、大きくなった犬をもらってくるのとではやはり違うと思います。このあたりについては、また別の機会に掘り下げてみようと思います。

    プロセスを定義「標準プロセス」とか、テンプレートの集まりを「ライブラリ」とか、バグを管理するシステムを「バグ管理システム」とか呼んでいる方々。それらにみんなが親しみを持てるような名前を付けてみる気になりましたか? 立派なものでも●●みたいなものでもいいのです。ちょっと雰囲気が変わるかもしれませんよ。