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第140号:プロセス改善ストーリー:ある新米SEPGの1日(評定に参加する)

2015年11月25日

  • プロセス改善ストーリー:ある新米SEPGの1日(評定に参加する)

    久しぶりにプロセス改善ストーリーをお届けします。CMMIを使ったプロセス改善活動で悩むポイントなどを、初心者向け解説本でよく見かける会話形式の文章で解説していきます。
    2009年頃から不定期に掲載していまして、今回は第11回です。

    今回は、CMMIのアプレイザルの概要や、アプレイザルチームの役割などについてご紹介します。

    <登場人物>  ()は会話文中の省略形
     野比(野):改善グループのメンバ。新米SEPG。
     土良(土):CMMIコンサルタント。改善グループの相談に乗っている。

    <ストーリーの背景>
    舞台は中堅ソフトウェアベンダの株式会社フジコソフト。
    新たに改善グループに配属されSEPGとして活動していくことになった野比は、同グループの骨川、源、そしてリードアプレイザの資格を持つ外部のコンサルタントである土良とともにCMMIをベースにしたプロセス改善活動を進めている。
    ※過去のお話はバックナンバーを参照下さい↓
    http://www.daiwa-computer.co.jp/jp/consulting/mailmagazine/index.html

    どうやら野比たちが所属する組織でCMMIのアプレイザルが行われることになり、野比は土良にいろいろと質問しています。

    アプレイザルの種類

    とある会議で、野比が土良に泣きつくように質問した。

    野「土良さ~ん、今度当社で行うCMMIのミニアプレイザルというものに、アプレイザとして私も参加することになったのですが、そもそもミニアプレイザルが何かよく分かりません。
      
    そんな状態なのに、SEPGリーダーの骨川さんとメンバの源さんは海外視察旅行中でして、代わりに私が準備を担当することになってしまいましたので、いろいろ教えて下さい。」

    土「そうですか、視察にいけなくて残念ですね。まずは2人でミニアプレイザルのことを検討していきましょう。」
      
    野「いよいよ当社もこのアプレイザルでCMMIのレベルが達成できるか決まるんですか? まだまだ改善活動が十分でないのに、とても不安です。」

    土「いえ、レベルの判定はまだです。CMMIのアプレイザルには、実施するタイミングや目的、使用する評価手法の違いにより、大きく分けて以下の3種類があります。

    ・ギャップ分析:改善活動の初期段階で組織の現状のプロセスを把握する

    ・ミニアプレイザル:プロセスを改善した結果を展開し、その実施状況を評価する

    ・正式アプレイザル:改善活動を通してプロセスが根付いていることを正式な手法を用いて評価し、レベル判定まで行う
      
    ギャップ分析やミニアプレイザルは、業者によってミニ評定、簡易診断、中間診断、簡易アセスメントと別の呼ばれ方をすることがありますが、概ねこの分け方になりますね。
      
    今回行うのはミニアプレイザルなので、改善の実施状況を評価して、改善活動が順調に行われているか、正式アプレイザルに向けての改善点やリスクを見出す目的で実施します。」

    アプレイザルの手法、アプローチ、活動内容

    野「よかった、今回はまだ途中段階での評価なんですね。ところで、正式アプレイザルの正式な手法とは何ですか?」
      
    土「正式アプレイザルは、SCAMPI Class Aという正式な手法を用いて実施します。アプレイザルで行う計画、準備、実施、報告などの活動内容、アプレイザルに参加するアプレイザの人数やスキル要件、対象プロジェクトのサンプリング方法、評価基準などが細かく決められていますので、それに則ってアプレイザルを実施します。
      
    詳しくは、CMMI Instituteが発行しているSMDDという文書でまとめられています。」

    ※SCAMPI=Standard CMMI Appraisal Method for Process Improvement
    ※SMDD=SCAMPI Method Definition Document for SCAMPI A, B and C
    http://tinyurl.com/oqrxwln
      
    野「なんだか難しそうな文書ですね。英語で書かれているし、私には翻訳コンニャク…じゃなくて翻訳ソフトでも使わないと読めそうもないです。」

    土「アプレイザルチームの一員としてアプレイザルに参加するメンバは、事前に手法について学ぶチームトレーニングを受講頂くことになります。リードアプレイザによるかもしれませんが、私から日本語でSMDDで求められる活動について説明しますので、そこで準備や評価の仕方について学んで下さい。」
      
    野「なるほど。それで、実際にはアプレイザルではどんな活動を行っていくのですか?」
      
    土「準備段階では、組織の事業目標やスポンサーの意向を元に、アプレイザルの目的、評価対象のCMMIモデルの範囲、対象組織、体制、対象データ収集方法、スケジュールなどを決定して、アプレイザル計画にまとめます。

    その計画に従って、準備を行っていきます。
      
    データ収集のアプローチは何種類かありますが、検証型を採用した場合は、事前に対象のプロジェクトや支援組織から、CMMIのプラクティスの活動が実施されたことを示す客観的証拠のデータの一つであるドキュメントを収集し、それをPIIsという一覧表にまとめていきます。
    ※PIIs=Practice Implementation Indicators

    実施段階では、そのPIIsを元に、ドキュメントレビューや関係者へのインタビューを行い、CMMIモデルに照らして評価を行っていきます。」

    アプレイザの役割、心得

    野「ドキュメントや関係者へのインタビュー結果から評価を行うということ分かりましたが、評価はリードアプレイザの土良さんが全部行うのですか?」
      
    土「私も評価に加わりますが、CMMIのアプレイザルでは、リードアプレイザだけの判断で評価を行うのではなく、組織のプロセスをよく知るメンバもアプレイザとして参加し、アプレイザルチームを組織して、チームの合意で評価を決めていくのが特徴です。」

    野「私も評価を行う一人なんですね。ちゃんと評価できるかなあ。あと、自分が関わったプロジェクトの評価は甘くつけちゃいそうです。」
      
    土「アプレイザルの結果は、チームの知識、経験、スキルが反映されます。ですから、アプレイザとしてきちんとした評価を行うためには、まずはしっかりCMMIモデルを理解することが重要です。
      
    CMMIモデルの全ては理解できなくても、アプレイザルではチームメンバやミニチーム単位に担当のプロセス領域が割り当てられますので、少なくとも自分が担当するプロセス領域については、プラクティスのさらに下位の要素のサブプラクティスまでよく読んで、モデルを正しく解釈できるようになっていた方が良いです。
      
    その上で、モデルのプラクティスと照らして評価対象の客観的証拠が適切で十分か判断するわけですが、その際には組織の事業目標やアプレイザルの目的を達成するのに十分なのか、ということも考慮して、改善点を見つけられるようにして下さい。
      
    例えば、事業目標が『生産性向上』の組織で、CMMIのプラクティスの記述に完璧に沿った内容と思われるドキュメントが客観的証拠として提出されていたとしても、そのドキュメントは数百ページもあり、それを作成するのは非常に非効率で生産性が良くないと判断される場合、生産性向上の目標を達成するための課題が改善の機会として見いだされるべきでしょう。
      
    また、アプレイザルの結果は、チームの客観性にも依存します。客観的に評価を行わないと、アプレイザルのアウトプットが組織の正しい状態を反映したものになりませんので、その後の改善が間違った方向にいってしまう可能性があります。
      
    客観性を確保するために、アプレイザルでは対象プロジェクトや支援組織に深く関わったメンバはチームに入れない、チームに入る場合はリスクとして特定して対策を打ちます。例えば、関連プロセス領域の評価の担当から外す、などです。
      
    まずは、アプレイザとして参加する人は、客観的に振る舞う気持ちを常に持っておくことが重要ですね。」

    野「なるほど、心に留めておきます。」

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    <野比のノビノビ日記 ~今日のまとめ~>
    ふう、なんとかアプレイザルの概要とアプレイザとして何を気をつけないといけないか分かったぞ。
    それにしても、「この視察旅行のチケットは3枚しかないから野比は連れていけない」なんて言って、骨川さん、源さん、郷田さんの3人で僕を置いて行っちゃうなんてひどいや。

    さて、今日の話をまとめておこう。
    ・SMDDにて3種類のアプレイザルおよび一連の活動が定義されており、レベル判定はSCAMPI Class Aのみで行う
    ・準備段階では、アプレイザルの計画策定、データ収集、PIIs作成などを行う
    ・アプレイザルチーム全員がCMMIモデルをちゃんと理解し、客観性を持って評価を行う