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第137号:航空機テロを避けて自動車事故

2015年08月25日

  • 航空機テロを避けて自動車事故

    先日、ワールドカフェ読書会に参加してきました。課題図書はダン・ガードナー著『リスクにあなたは騙される』でした。
    その本によると、9.11のテロの後、アメリカでは人々が飛行機を過度に恐れ、飛行機に乗るのを止めました。
    テロの数日後に民間航空便の運航が再開されましたが、ほとんどの便は空だったそうです。

    人々は飛行機の代わりに車を使い、その結果、自動車事故による死者が急増しました。
    1年で死亡者数は、テロに遭った飛行機の搭乗客数の約6倍にもなりました。
    危険を避けるためにしたことが、より危険なほうに向かっています。

    9.11のテロの映像は繰り返し繰り返しTVで放送され、恐ろしさが強調されましたので、乗っている飛行機がハイジャックされて、ビルに激突して死ぬことを想像すると、怖くて飛行機に乗りたいとは、誰も思わないでしょう。

    しかし、仮に毎週テロリストが1機のジェット旅客機を米国内でハイジャックしてビルに激突させたとして、毎月1回飛行機を利用する人がハイジャックで死ぬ確率を計算すると、13万5000分の1になります。
    車の衝突で死ぬ年間の確率は、6000分の1です。

    この数字を比べてみても飛行機のテロで死ぬ確率は非常に低いです。
    実際には毎週テロが起こったりしていませんし、ほとんどの人は毎月飛行機に乗らないと思いますので、現実的にはテロで死ぬ確率はもっともっと低くなることでしょう。

    でも人間は飛行機よりも自動車を選んでしまうのです。
    確率では明らかなのにそうしてしまうのです。
    リスクマネジメントはほんとうに難しいなと思います。

    ソフトウェア開発プロジェクトでも、いろいろなリスクに対処していかなくてはなりません。
    多くのプロジェクトでは、発生確率と影響度を出して優先度を決めていると思います。
    でもその発生確率はどの程度のものなのでしょう。

    高/中/低とかH/M/Lの三段階で評価しているプロジェクトもあるでしょう。
    仮にリスクが「高」だとしてもどの程度高いのか、利害関係者の中で認識は合っているでしょうか。
    10%なのか80%なのか人によって認識が違うと、だれかにレビューしてもらってもあまり効果がありません。

    発生確率と影響度に見合った軽減策をとらなければなりません。
    リスクは問題とは異なり、発生するかどうかわからないものです。
    発生しないものに対して、すでに発生しているものと同じような対策をとると予算がどれだけあっても足りません。

    適切な軽減策をとれているでしょうか。
    飛行機のテロを避けて自動車に乗るような軽減策になっていないでしょうか。
    コストの超過を避けるために、よりコストがかかっていたり、品質を確保するための対策が、品質を下げていたりしていないでしょうか。

    実際に発生した問題に関連する情報を蓄積し、どのようなリスクがどの程度の確率で顕在化するのかとか、どれぐらいの影響があったのかとか分析し、その結果に基づいて、リスクの識別・分析・軽減策の策定を行うのもよいでしょう。

    『決定分析と解決』を、リスク軽減策の選定に適用するのもよいと思います。
    リスク軽減策の複数の候補をあげて、評価基準をあらかじめ決めて、それに基づいて評価し、最も合理的なリスク軽減策を選択します。

    手間はかかりますが、リスクマネジメントがうまくできていないなと思われるところでは一度ぐらい試してみてもよいのではないでしょうか。
    資金がありあまっているプロジェクトなんてないと思いますので、リソースは効率よく使いましょう。

    また、ほぼ確実に起きることばかりをリスクとしているプロジェクトもあります。
    この場合は、軽減策に費やした労力や費用がが無駄になるということはありませんが、これはリスクマネジメントではありません。