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第138号:iコンピテンシ ディクショナリ(iCD)で人材育成

2015年09月25日

  • iコンピテンシ ディクショナリ(iCD)で人材育成

    CMMIモデルには、組織の人材育成に関連するプロセス領域として、組織トレーニング(OT)があります。
    成熟度レベル3の達成のためには必須のプロセス領域ですし、当メルマガ読者の多くの組織でも、様々な形でOTを実装していることでしょう。

    ところで、OTの目的は「役割を効果的かつ効率的に遂行できるように、人員にスキルおよび知識を身につけさせることである」ですが、皆さんの組織ではこの目的にあるように、組織に所属する人員が実際にスキルや知識を身につけたかどうかまでをフォローすることができていますでしょうか?

    OTのプラクティスの実装として、戦略的なトレーニングニーズを確立して、ニーズに沿った講習会を企画し、講習会の参加者からアンケートをとって満足度や有益度を集計し、次の教育への課題やニーズを特定する、といったことをよく見かけますが、「このやり方で実際の業務で役立つスキルや知識を身につけたことをちゃんと評価できたと言えるのか」と疑問を感じたことがあるのではないでしょうか?


    そんな疑問を解消する解決策の一つとして、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が策定したiコンピテンシ ディクショナリ(iCD)というスキル標準がありますので、今回は簡単にその紹介をしたいと思います。

    iコンピテンシ ディクショナリ
    https://www.ipa.go.jp/jinzai/hrd/i_competency_dictionary/

    iCDとは

    iCDとは、各組織が人材育成について検討・見直しをする際に、自組織の戦略に合わせて自由に抽出して使えるように、様々な参照プロセスモデルや知識体系などが持つコンテンツを、「タスクディクショナリ」と「スキルディクショナリ」の2つのディクショナリとして横串で整理して標準化・一元化したものです。

    スキル標準といえば、ITSS、ETSS、UISSといったものが有名ですが、iCDはそれらの後継バージョンにあたります。

    IPAの調査によると、今までのスキル標準はIT人材が所属する企業の約4割で採用されているとのことで、普及率としてはまずまずであり、人事評価やスキルの見える化には使えるなど一定の評価を得られてはいますが、
    ・自社の戦略やビジネスモデルを考慮せずに採用しているケースがある
    ・経営目標と欲しい人材像・レベルが一致せず、人材育成にうまく活用できずに中断したり、惰性で悩みながら使用し続けたりする
    ・期末の評価期間だけのルーチンイベントにしか利用されず、期中に目標を意識することなく人材育成に結びついていない
    といった課題も抱えていました。

    iCDは上記の課題に対処し、過去のスキル標準を融合した後継バージョンとして、前身のCCSFが2009年に策定され、その後、iCDと名前を変えて2014年に試用版発行、2015年6月に正式版がリリースされました。

    各ディクショナリについて

    タスクディクショナリには、「課される仕事」、すなわち組織や個人に求められる機能や役割が定義されており、大分類、中分類、小分類、評価項目の4階層で整理されています。
    大分類が50、評価項目は2600項目ほどあります。

     大分類(約50) - 中分類(約250) - 小分類(約700) - 評価項目(約2600)

    スキルディクショナリには、「タスク遂行のための素養」、すなわちタスクを支える能力(スキルや知能)を体系化したもので、8000項目ほどあります。

    言い換えるとiCDとは、IT関連企業での仕事やスキルをまとめた辞書のこと、ということになります。

    iCDのディクショナリは、ITの業界で良いと言われる様々なプロセスモデルや知識体系、たとえば、SLCP、ITIL、PMBOK、BABOK、SQuBOK、CoBITなどを参照し、整理・統合され、各モデルのいいとこ取りをして作成されています。

    タスクの大分類の一例をあげると、事業戦略策定、システム企画立案、システム要件定義・方式設計、アプリケーションシステム開発、プロジェクトマネジメント、サービスマネジメント、マーケティング・セールス、営業業務、総務・人事等、IT関連企業で行われるであろう仕事の多くを網羅していますので、皆さんの組織の仕事に対応するものがだいたい含まれているかと思います。

    iCDを使った評価システムの構築方法

    iCDを使った評価の仕組みの構築には、まず自社の戦略や取り組むべき課題をもとに、組織や人材育成のあるべき姿を明確にする要件定義から始めます。
    そして、その要件をもとに、タスクディクショナリを自社に合わせて定義していきます。

    ディクショナリにはたくさん項目があるので、あくまで参照モデルとして使い、要件をもとに自社タスクを取捨選択および修正しながら定義していくことが構築のコツになります。

    CMMIを用いた改善活動でも、ギャップ分析で組織のプロセスの課題を明らかにした後、その課題を解決するようにCMMIモデルを参考にしてプロセスを定義していく、というアプローチをとることがよくあります。
    そのやり方を経験された方であれば、iCDのアプローチもよく似ているので、とっつきやすいかと思います。

    自社のタスクが定義できたら、組織内の役割と役割ごとのレベル設定、評価基準の設定、パイロット評価とチューニングを行い、評価の仕組みとしてクロスリファレンスの表が完成します。

    そのクロスリファレンスをもとに、各人員が自己評価を行うと、どのタスクがどのレベルまでできるのかを把握できるようになります。

    iCDの評価結果の活用方法

    個人レベルでは、評価結果を見るとことで、自分はこのタスクができて、これができないといった気づきや納得感が得られるようになります。
    そして、スキルの不足を埋めていくことを意識しながら、業務を進められるようになります。

    チームや組織レベルでは、所属人員の評価結果をサマリすることで、役割ごとにレベル○の人が何人所属しているとか、タスクごとにレベル○の人が何人いるとか、といったことが可視化されます。

    CMMIのOTと連動させるには、組織のニーズと現実とのギャップを埋めるように、講習、Eラーニング、OJTなどのトレーニングを計画し、実施します。その結果から、各自のタスクのレベルが上がったかを評価することで、冒頭で挙げた課題の「組織に所属する人員が実際にスキルや知識を身につけたかどうか」までをフォローできるようになります。

    iCDのその他の情報

    紙面の都合上、あまり詳細な解説はできませんでしたので、詳しくは下記を参照ください。
    関連資料を無料でダウンロードできます。

    iコンピテンシ ディクショナリ
    https://www.ipa.go.jp/jinzai/hrd/i_competency_dictionary/

    iCDそのものはExcelファイルで提供されていますが、評価のためのツールとして、クラウドのシステムがIPAから無料で提供されており、Web上で評価の実施、データの蓄積を行うことが可能です。

    iCD活用システム
    https://www.ipa.go.jp/jinzai/hrd/i_competency_dictionary/system.html

    iCDは、IPA以外の他の団体でも、研究や普及のためのワークショップ等の活動が行われています。
    弊社も、一般社団法人コンピュータソフトウェア協会(CSAJ)iCD研究会主催のワークショップに昨年参加し、その後、自社での適用を推進中です。
    また、今年のワークショップにはサブ講師として参加協力を行い、普及に一役買っています。

    CSAJ iCD研究会 活動報告等
    http://www.csaj.jp/committee/jinzai/icd.html

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    iCDは、前身のCCSFからの利用企業を含めると、現在では80数社の企業で導入され、これからますます広まりを見せる可能性を秘めています。

    人材育成の方法について検討されている企業の方は、iCDの導入について一考してみてはいかがでしょうか。