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第69号:プロセス改善ストーリー: ある新米SEPGの1日(改善策策定編)

2009年12月25日

  • プロセス改善ストーリー: ある新米SEPGの1日(改善策策定編)

    今回は趣向を変えて、ある新米SEPGがCMMIに取り組んで奮闘していく様子を、初心者向け解説本でよく見かける会話形式の文章で進めてみます。

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    お話の舞台となるのは、株式会社フジコソフト(仮名)という、創業20年、社員数200名のソフトウェア開発ベンダ。近年、不景気のあおりを受けて業績不振に陥っており、その打開策の1つとして、CMMIを利用した業務プロセス改善を行っていくことを社長は決めた。

    野比は、この会社に入社して7年目のSEだ。先日までやっていたプロジェクトが一段落し、次のプロジェクトに参入というタイミングで異動が告げられた。異動先はプロセス改善グループ。野比は、最近出来たばかりのそのグループの存在は知ってはいたが、いまひとつ何をしているグループかは知らなかった。

    今日は異動初日。野比は改善グループを訪問した。

    CMMIについて

    骨「やあ野比くん、私はプロセス改善グループのリーダーの骨川だ。今日からよろしく頼むよ。早速だが、今日は先日行われたCMMIのギャップ分析の結果から改善計画を作るための会議が行われる予定なんだ。君もそれに参加してほしい。
    改善計画が決まったらその後、当社の標準プロセスを構築していく活動が始まる。そこで人手が足りなくなるので、君をアサインさせてもらった次第だ」

    野「野比です。よろしくお願いします。異動直後で右も左も分からない状態なので……そもそも、CMMIが何かまだよくわかってません」

    骨「CMMIとは簡単に言うと、アメリカのカーネギーメロン大学のSEIというところで開発されたプロセス改善のモデルなんだ。ISO9000シリーズは聞いたことあるだろ?あれも1つの改善のモデルなんだが、ISO9001は業種を問わず採用されてるけど、CMMIはエンジニアリング、とりわけソフトやシステム開発に特化されている内容で構成されていて、この業界ではデファクトスタンダードなんだよ。というわけで、当社もCMMIをベースにプロセス改善を進めることになった。まあ、おいおい君にも公式の入門コースを受講してもらうつもりでいるから、そこでじっくり勉強してもらうよ」

    ギャップ分析について

    野「なるほど。ではギャップ分析というのは何ですか?」

    骨「ギャップ分析は、CMMIモデルと照らして当社の現状の仕事のやり方を評価して、プロセスの弱いところを洗い出す目的で行うものだ。先日、成熟度レベル2の範囲を外部のLA(リードアプレイザ)の方に見てもらったんだが、かなりの箇所でギャップが出てね。これからが大変だよ。さて、そろそろ会議が始まる。移動しよう。会議には改善グループのメンバと、さっき話した外部のLAの方が参加するよ」

    弱みに対する改善策の立て方

    土「私が株式会社未来から来ましたLAの土良です。今日はよろしくお願いします」

    野「今日から参加させて頂きます、野比と申します。よろしくお願いします」

    骨「今日はギャップ分析の結果から改善計画を作っていくということですが、実際にはどのようにやっていくのですか?」

    土「いろいろやり方はありますが、まずは弱みに対して網羅的に改善策を考えやすいように、特定された弱みを一覧にして順に見ていくことにしましょう。それがこれです。」

    土良は、持ってきたノートPCを会議室のプロジェクタにつないだ。課題一覧と書かれた表が映し出された。左から、課題No.、課題、要因、優先順位、対応策、作業成果物といった項目が並んでる。

    骨「なるほど。この課題欄に書かれているのがギャップ分析時の弱みですね。その要因を評価をして、それに応じて対応策を入れると。プロジェクトでやっている課題管理のしくみと似てますね。ちなみに、優先順位はどうやって決めたらよいですか?」

    土「緊急度、難易度、重要度といった軸で考えると良いと思います。緊急性や重要度が高いと優先度を高くして先に取り組む必要がありますし、重要度が低くて難易度が高いものは後回しでもいいでしょう。また、緊急性は低くても、難易度が低い、すなわち対応工数が少ないようでしたら先に取り組んでしまうという考え方もできます」

    属性の見積もりとは

    会議は課題に対する要因、対応策をどうするかを検討しながら進んでいった。ある課題で、野比が質問した。

    野「あのう、課題に『作業成果物の属性の見積もりが行われていない』とありますが、この属性の見積もりとは何ですか? 多くのプロジェクトでは工数は見積もってると思いますが……。それじゃダメですか?」

    土「属性とは、作業成果物やタスクの工数、費用、スケジュールを決めるインプットとなるパラメータのことで、たとえば、規模や難易度、複雑度といったものをさします。どんなものが規模尺度にあたるか、イメージできますか?」

    野「うーん……、ちょっとピンときません」

    土「しょうがないですね、野比さん。では……」

    といって土良はポケットから1冊の本を取り出した。

    土「CMMI標準教本です。用語やモデルの解釈に困ったら、これを見ましょう。規模尺度の例がここに載っています。たとえば、機能の数、ファンクションポイント、ソースコード行数、クラスまたはオブジェクトの数、ページ数等ですね。これらは、対象の作業成果物やタスクが本来もっている特定の一面をあらわしたもので、誰が測定してもあまり差がでないものになります。ちなみに、野比さんはご自分のプロジェクトでは工数はどうやって見積もっていますか?」

    野「えーっと、作るものをなんとなくイメージして工数を出すんですが、いわゆるKKD、勘と経験と度胸ですかね……」

    土「それだと、工数を見積もる際の根拠として薄いですよね。また、文書化していないと、見積もりのレビューを受けたとき、説明に困りますよね。規模や属性を見積もった結果を文書化することで、見積もりの根拠が明確になります」

    野「では、"属性見積もりがない"という弱みについては、皆が確実に文書化するよう、規模とか見積もりを行うテンプレートを用意しないといけなさそうですね」

    土「それがいいでしょう。ではそろそろ終了予定時刻ですので、今日はここまでにしましょう。次回までに、各課題の改善策の案を書いてみてください。次回はそれをレビューしていく形ですすめましょう」

    野「次回もよろしくお願いします」

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    <野比のノビノビ日記 ~今日のまとめ~>
    プロセス改善グループ配属となっていきなり、ヘビーな会議に参加することになり、大変な1日だった。

    入門コースというものを受講すればCMMIの全体像がわかるらしいけど、受講はまだ先になりそうだし、こんな僕でもやってくことができるんだろうか? このままだと改善グループの骨川さんや源さんにも迷惑をかけそうだ。なんとかついていけるように、毎日少しずつでも覚えたことを記録していこう。

    ・CMMIとは、SEIで開発されたプロセス改善のモデルでソフト業界でよく使われている。
    ・ギャップ分析とは、組織のプロセスの現状とCMMIモデルを照らして弱みを洗い出して改善につなげる評価の場である。特定された弱みは次の改善計画のインプットになる。
    ・属性見積もりとは、規模や難易度などの見積もりのこと。工数見積もりの前に実施しよう。