CMMIの現時点での最新版であるCMMI-DEV V1.2 の日本語版がついにリリースされたことは、先月もお伝えしました。
モデルの変更点についてはこのメールマガジンでも何度かお伝えしてきましたが今回は日本語化に伴って気付いた点がありますので、いくつか取上げてみます。
第42号:開発のためのCMMI 1.2版での変更点
2007年09月25日
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開発のためのCMMI 1.2版での変更点
確立し維持する→確立し保守する/確立し維持する:establish and maintain
今までのモデルに馴染んでいた方々には、ちょっと読んだら違和感を感じる部分があると思います。いくつかの用語の翻訳が変わっているからです。どう変わったかはP.558に一覧になっていますが、これはそのうちの一つです。
例えば
P.330:プロジェクト計画策定 SP1.2
SP1.2 作業成果物およびタスクの属性の見積もりを確立し維持する。
だったものが ^^^^
SP1.2 作業成果物およびタスクの属性の見積もりを確立し保守する。
となっています。 ^^^^
理由は「用語集」にこのように記述されています。
「V1.1 では『確立し維持する』とだけ訳出していた。『維持する』だと、確立した後に対象物を変更しないほうが望ましく見える。本来の『maintain』の意図は、状況に合わせて適宜変更することであり、maintain の対象が特に有形の場合には、V1.2 では『保守』と訳出している。」
つまり上記の例の場合、属性の見積もりはそのまま同じ状態であることが良いのではなく、状況の変化によりそれを見直していくことが必要だという意味を強調しているということです。
また、全て保守するとなったわけではなく、「確立し維持する」のままの部分もあります。
P.114:構成管理の目的
『構成管理』(CM)の目的は、構成の特定、構成制御、構成状況の記録と報告、および構成監査を行って、作業成果物の一貫性を確立し維持することである。
この場合の対象は作業成果物の一貫性のことなので、維持していくことが必要なわけです。対象的にその一貫性を維持するための「構成管理および変更管理システム」は「確立し保守する」となっています(構成管理 SP1.2)。
この使い分けを見れば、モデルの意図がどこにあるのかが判断しやすくなりました。非遵守→不遵守:noncompliance
これについては訳注等がないので真意は分かりませんが、個人的には馴染んでいた言葉だったので違和感が強いところです。「なぜだ!」と思いGoogleで検索してみると、
非遵守 の検索結果 約 727 件中 1 - 10 件目 (0.13 秒)
不遵守 の検索結果 約 1,960,000 件中 1 - 10 件目 (0.20 秒)
と、圧倒的に「不遵守」の方が多いのです。きっと一般的な表記に合わせたのでしょう。測定目標:Measurement Objectives
これは訳が変わったわけではないのですが、訳注がついています(P.180)。
測定目標(訳注:原文では「objectives」なので目標と訳出されているが、purpose(目的)の意味が強い。SP1.1 を参照のこと)
どういうことかというと、基本的に同じ英単語は同じ日本語に訳されているのでObjective→目標となっていますが、日本語ではちょっと違和感があります。
例えば最近運動不足だからスポーツを始めようと考えた場合、「目的」は健康維持やダイエット、ストレス発散等が考えられます。「目標」は、体重を5キロ減らすとか、3ヶ月間毎日1キロ走るといったものになるでしょう。
モデルでの測定目標は上の例での「目的」にあたるものです。何のために測定を行なうのかということをはっきりさせるのがSP1.1のイメージです。これはP.180のSP1.1の注釈、「測定目標は、「測定と分析」が行われる目的を文書化し、データ分析の結果に基づいて講じられるであろう処置の種類を明記する。」といった部分を読めば分かるのですが、日本語そのままの意味で捉えると勘違いしやすいところでした。管理層→管理上:Management
同じく測定と分析です。
「管理層」の情報ニーズに応えるために使用される測定能力を開発し維持することである。
となっていた目的の訳し方が下記のように変わりました。
「管理上」の情報ニーズに応えるために使用される測定能力を開発し維持することである(P.178)。
原文はManagementという単語がこの部分に使われています。「管理層」というと組織の中の偉い人達をイメージすると思いますが、情報ニーズは様々な所から発生しえます。そのため訳し方を「管理上」と変更しました。
実はこの部分は私が出した変更要望だったので、今回反映されていてちょっとうれしかったです。このように細かい所を見ていくと、単に英文が変わった所を訳しただけではなくさらに分かりやすいものにしようとした、翻訳チームの方々の思いが感じられます。翻訳およびリリースまでに関わった様々な方々のご尽力に敬意を表します。
また、変更要求は誰でも提起することができます。気になった点があればあげていくことで、次の改変時に取り込まれるかもしれません。みんなでモデルを更に良いものにしていきましょう。