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第24号:SEPG2006レポート

2006年03月24日

  • SEPG2006レポート

    今年で18回目を数えるSEPGカンファレンスが3月6日から4日間、テネシー州ナッシュビルにて開催されました。その中で興味を引いたトピックのいくつかをご紹介します。

    このカンファレンスはCMMの開発元であるSEIが主催して、世界各国からプロセス改善に関わる人達が集まり、研究成果を発表したり、意見交換を行ったり、親交を深めたりするイベントです。開催地であるナッシュビルは、カントリーミュージック発祥の地として有名な所です。ダウンタウンに行けばバンドの生演奏を気軽に楽しむことができる店がたくさんありました。

    今回はnTAGというシステムが導入されていました。普段参加者は首から下げる名札を身に付けるのですが、このシステムでは名札の代わりに液晶画面といくつかのボタンの付いた小さな機械を使います。これにより下記のことができます。
    ・カンファレンスプログラムが参照できる。
    ・知り合った人と名刺の代わりにデータを交換できる。
    ・お知らせを受信できる。
    ・どのセッションに参加していたかが記録される。
    最終日に名刺を交換した人や、いつどのセッションに参加したかがメールで送られてくるという、サボっていた人にとっては身の毛もよだつほど恐ろしいシステムです。仕組みはなかなか面白いもので、色々使えそうだなと思いました。

    セッションの傾向としては、測定と分析に関するものが増えたように感じました。
    これは、プロセス改善を行っているところの全体的な成熟度が徐々に上がってきたためではないかと思われます。また、People-CMMについてのセッションも多くなってきていました。

    ではいくつかのセッションについてです。

    Do's and Don'ts of process improvement.
    Pat O'Toole/PACT.

    プロセス改善での Do と Don't(やるべきこととやるべきでないこと)をユーモアを交えて伝えてくれました。いくつかの例をあげると、
    ・レベルをゴールにするな
    ・CMMIをバイブルとしてあつかうな
    ・最初に巨大プロジェクトをターゲットにするな
    ・「ベスト」プラクティスではなく「グッド」プラクティスを考えろ
    ・使わないデータを集めるな
    ・金曜日をプロセス改善の日にしろ
    最後のものは意味がよく分からないと思うので解説しますと、兼任でプロセス改善を担当する場合、2割未満を割り当てても無駄である。2割以上だとしても一日に少しづつではなく、どこか一日全てをプロセス改善に割り当てましょう、という話です。

    彼はこのシリーズをメールマガジンとして発行しているので、興味がある人は登録してみると良いと思います。

    Definition and Analysis of organizational performance
    Bijan Kumar Samanta/Keane Inc.

    このセッションはその名の通り、組織のパフォーマンスの定義と分析についてのものです。成熟度が上がることと、測定データの使い方の変化との関連性について述べられていました。

    成熟度レベル2では、結果を測定し報告するために使われます。成熟度レベル3ではそのデータの蓄積により計画や見積もりに使用されます。成熟度レベル4ではパフォーマンスのベースラインを確立し、プロセスの制御のために使われます。
    そして成熟度レベル5ではそのベースラインを改善し維持するために使われることになります。

    ジャンル毎にいくつかのメトリクスが紹介されていました。例をあげますので皆様も参考にしてはいかがでしょう。
    1.財務上の結果
    ・プロジェクトのコスト、収益、投資、利益
    2.関係者の関与とパフォーマンス
    ・顧客満足度、従業員満足度、供給者パフォーマンス評価、課題の数、課題の平均解決時間
    3.インフラの可用性と利用
    ・再利用可能なコンポーネント、測定リポジトリ、コンピュータベースのトレーニング、ハードウェアインフラ、ネットワークインフラ、ツールとパッケージ
    4.成果物品質
    ・規模単位の欠陥件数
    5.プロセス品質
    ・欠陥除去率、欠陥発見率
    6.プロセスパフォーマンス
    ・生産性

    Measuring and Managing the CMMIRJourney Using GQM
    Rajendra T. Prasad/Accenture India Deliver Center

    CMMIでは測定が重要視されています。しかし実際何を測定すればよいのかと悩んでしまったり、測定してもそのデータを利用出来ないという話を耳にすることがあります。それらを避けるための方法の1つとして、GQM(Goal/Question/ Metric Method)が紹介されていました。

    これは、まずゴール(Goal)を定めて、そのゴールを質問(Question)に言い換えて、その質問に答えるための測定(Metric)を行うという考え方です。そしてその測定結果からゴールが満たされたかどうかを確認します。当たり前と言えばそうなのですが、これが意識できないために前述の問題に突き当たってしまうことがあるのではないでしょうか。

    紹介されていた例:
    ゴール
     高品質なソフトウェアを提供する。
    質問:
     1.実装後に報告されるエラーの数をどうやって減らすか?
     2.ピアレビューに有効性はどうなのか?
     3.リワーク工数を削減するための計画はあるのか?
     4.どうやってテストの効率を改善するのか?
    測定:
     1.欠陥除去効率
     2.フェーズ毎のレビュー有効性
     3.品質にかかるコストのパーセンテージ
     4.テスト活動の有効性

    この考え方は「測定と分析」プロセス領域にぴったりくるものなので、実装の参考にしてみて下さい。

    Designing Your Tailoring Approach to Help Achieve Higher Levels of Matu-rity
    Diane Mizukami/Northrop Grumman

    その名の通り、テーラリングについての発表です。標準プロセスを提供する人達がどのような流れをたどるかを3つのパターンに分けて説明されていました。

    1.典型的な組織
    標準プロセスをワードで作成→プロジェクトへワードファイルを提供→冬眠に入る→数年後にプロセスや方針を更新する。

    2.成熟した組織
    標準プロセスをエクセルやデータベース等のツールを用いて作成→プロジェクトにツールで提供→ツールを用いて自動的にデータを取得→取得したデータを利用して改善活動を行う。

    3.典型的な成熟しようとする組織
    標準プロセスをワードで作成→プロジェクトへワードファイルを提供→プロジェクトが定義したプロセスを文書で収集し、何が行われているかを時間や費用をかけて分析→間違いがちな手法を利用して、プロセスや方針を提起的に更新する。

    もちろん彼女の提言は2のような形で進めていこうというものです。つまりテーラリングが行われる際に、どの部分に対して変更が行われているかとか、適用が除外されているかとかが、簡単に分かるような仕掛けをしておくことにより、プロセス改善のネタを探せるようにしましょうということです。

    実例としては、リスク管理のある部分のテーラリング度合いが高かったので何故なのか調査してみると、標準プロセスの規定が詳細過ぎて「標準」とすべきものではないということが判明しました。そこで標準を変更して詳細はプロジェクト計画に各々が記述するようにしたということです。

    このプレゼンテーションは、2004 CMMI Conferenceで"Outstanding Presentation for High Maturity"を受賞したそうで、確かに分かりやすく面白いものでした。

    Appraiser Program Quality Report
    Will Hayes/Software Engineering Institute

    「成熟度レベルが3だ」という評価は、リードアプレイザが適当に報告すれば認められるのでしょうか?CMMIの正式評定(SCAMPI)に関するデータは、全てSEIに送られます。そのデータはSEIによりチェックされて、おかしなものであれば追求され、深刻な問題があるようであれば最悪パートナ契約が解除されるという仕組みになっています。このセッションはそのチェックをしている所からの報告です。

    送られてきたデータに対して2つのチェックポイントがあり、各々でチェックリストに基づいたチェックが行われています。その中で発見される問題のトップ3を発表します。
    3位:成熟度レベル3から5に18ヶ月以内で上がっている。
    2位:適用する専門分野と評価結果がマッチしない。
    1位:初めてのアプレイザルで成熟度レベル4、5を達成している。

    絶対に最初のアプレイザルで成熟度レベル4を達成してはいけないというルールがあるわけではないのですが、過去に明らかにおかしいというデータ(成熟度レベル5のアプレイザルを5日間で行った!)があったため、こういった基準に基
    づいて最初のチェックが行われています。

    このような努力によって、成熟度レベルの信頼性が保たれているわけですね。

    全体の参加者数は例年とあまり変わらないと思うのですが、日本からの参加者は比較的少なめだったような気がしました。来年は2007年3月26日~29日の4日間、テキサス州オースティンで開かれますので皆様も参加してみませんか?きっと何か得るものがあると思いますよ。