昨年12月にCMMI Service V2.0の公式セミナーであるBSEコースを開催しました。
https://www.daiwa-computer.co.jp/jp/consulting/seminar/BSE
参加いただいた皆様、ありがとうございました。予想よりも多くの方に受講いただきまして、CMMIをソフトウェア開発だけでなく、サービスマネジメントに活用することに興味をお持ちの方は、日本国内にも多くいらっしゃるのかなと感じました。
ところで、IT業界でサービスマネジメントの手引きとしてはITILやISO/IEC20000などが有名です(ITIL:Information Technology Infractructure Library)。当メルマガ読者の所属組織でも、開発業務はCMMIを、保守・運用業務はITILを参照して標準化や改善に活用している、ということも多いと思いますが、そういった組織でも、参照しているのは以前のITILv2やv3で、2019年にリリースされた最新のITIL4の適用はまだということも多いのではないでしょうか。
最近、筆者もITIL4に興味を持っていろいろ調べているのですが、CMMIがV1.3からV2.0で時代に合わせて改訂が行われたように、ITIL4もこのデジタル時代に適用できるように大幅な改訂が行われており、サービス業務に携わる人はもちろん、CMMIユーザーにとっても参考になる要素が多いなと感じました。改訂の方向性もCMMIとの共通点が多々あります。
ITIL4の概要については書籍やネット等で多数情報が公開されていますので詳しくはそちらを参照いただくとして、このメルマガではCMMIユーザーの視点から、参考になると思われるITIL4の考え方や、CMMIとの類似点などを簡単にご紹介したいと思います。
第226号:ITIL4とCMMI
2023年01月25日
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ITIL4とCMMI
ビジネスに焦点、価値提供から共創へ
以前のバージョンのITILでは、ITILを導入すること自体が目的になりがちだったのが、ITIL4ではビジネスに価値をもたらすITサービスをいかに実現させるか(ITを使ってどのようにビジネスを作っていくか)に焦点が当てられるようになりました。
また、以前のITILは、サービスプロバイダはサービス消費者に価値を「提供」する、という考え方でしたが、ITIL4ではサービス消費者とともに価値を「共創」するという考え方が導入されました。オープンイノベーションの時代に合わせた改訂といえるかと思います。
CMMI V2.0がプロセスだけでなくパフォーマンスも重視するコンセプトになったのと近いものを感じます。最新の技術やフレームワークとの融合、DX対応
ITIL4では、アジャイル開発、リーン開発、DevOps、ITガバナンスなど、最新の技術やフレームワーク等との融合が図られました。
また、新しいデジタル技術を活用することによって新たな価値を生み出すデジタルトランスフォーメーション(DX)の考え方が取り入れられ、DITS(Digital and IT Strategy)というガイドも用意され、DX推進のガイドとしてITIL4が使用できるようになっています。
CMMIはV2.0でアジャイルのガイドの記述が拡充され、2023年リリース予定のV3.0では、DevSecOpsやデータマネジメントなどの対応が見込まれるなど、技術トレンドに対応していく流れはITILと同様ですね。サービスライフサイクル→サービスバリューシステム(SVS)アプローチへ
以前のITILは、戦略・設計・移行・運用といったサービスライフサイクルごとにプロセスや機能を構成するアプローチでしたが、ITIL4ではサービスバリューシステム(SVS)という、サービスを通じて成果を得るために顧客と価値を共創するシステムを導入するアプローチが採用されました。
サービスバリューシステム(SVS)は、次の5つの要素から構成されます。
A) 従うべき原則
B) ガバナンス
C) 継続的改善
D) サービスバリューチェーン(SVC)
E) プラクティス
このサービスバリューシステム(SVS)は、CMMIに登場する「サービスシステム」と類似の概念かと思われます。用語の定義を書いておきます。
・サービスシステム:利害関係者の要件を満たす構成要素を統合した相互依存性のある組み合わせ
・サービスシステム構成要素:サービスシステムが価値を提供するために必要とされるプロセス、作業成果物、人、消費財、顧客、またはその他の資源
CMMIのサービスシステムがよくわからずにどう実装するか悩んでいる方は、ITIL4のSVSやSVCの考え方が実装のヒントになるかもしれません。
以下で(A)~(E)の概要をご紹介します。従うべき原則
A)従うべき原則は、組織がサービスマネジメントを行う際の普遍的な指針としてITIL4から導入されました。
1.価値に着目する
2.現状からはじめる
3.フィードバックをもとに反復して進化する
4.協働し、可視性を高める
5.包括的に考え、取り組む
6.シンプルにし、実践的にする
7.最適化し、自動化する
アジャイル開発の原則やリーンなどが参照されてこの原則が作られたとの話もありますし、プロセス改善を進めるうえでは重要な共通の考え方かと思いますので、CMMIユーザーにも参考になるかと思います。ガバナンス
B)ガバナンスは、組織を方向づけ、コントロールする仕組みであり、評価・指揮
・監視の3つの活動を行います。
CMMIも、V2.0から上級管理層の活動が「統治(ガバナンス)」としてまとめられましたので、近い概念かと思います。継続的改善
D)継続的改善は、継続的にサービスの有効性を最大限に高めるための組織の改善活動です。以下の7つの改善ステップが推奨されています。
1.ビジョンは何か
2.我々はどこにいるのか
3.我々はどこを目指すのか
4.どのようにして目標を達成するのか
5.行動を起こす
6.我々は達成したのか
7.どのようにして推進力を維持するのかサービスバリューチェーン(SVC)、バリューストリーム
D)SVSの中核となるのがサービスバリューチェーン(SVC)です。組織が価値を創出するために実行するステップであり、以下の6つの活動を組み合わせて定義しま
す。
1.計画
2.改善
3.エンゲージ
4.設計および移行
5.取得/構築
6.提供およびサポート
これらの要素と後述の(E)プラクティスを参考に、サービス消費者と合意済みの達成目標を実現するために必要な活動や手順を定義したものを、ITIL4ではバリューストリームと呼びます。
バリューストリームは、CMMIで言うところの標準プロセス群に近い位置づけのもののようですが、単にインプットをアウトプットに変換する一連の活動を定義した「プロセス」とは異なり、需要や機会から価値創出までのエンドツーエンド(始まりから終わりまでの経路全体)を定義したものを指します。プラクティス
E)プラクティスは、以前のITILでサービスライフサイクルごとに用意されていたプロセスや機能が、ITIL4では「一般」、「サービス」、「技術」の3系統の34個のマネジメントプラクティスとして再編成されたものです。
CMMIのプラクティス領域とほぼ同じ位置づけのものと思われます。
34個全部はこのメルマガでは紹介しきれないので、詳しくはまた別の機会で紹介することにして、今回はCMMIユーザー向けにCMMI Serviceの主要プラクティス領域(SDM、STSM、IRP、CONT、MPM)と関連が深そうなITIL4のプラクティスを紹介するにとどめます。これらのマッピングは適用の仕方や状況によっては正確でないかもしれませんが、ご参考まで。
・サービス提供管理(SDM)
サービスデスク、サービスレベル管理、サービス要求管理、サービスデザイン、変更実現、サービスの妥当性確認およびテスト、展開管理、インフラストラクチャとプラットフォーム管理
・戦略的サービス管理(STSM)
アーキテクチャ管理、ポートフォリオ管理、戦略管理、事業分析、サービスカタログ管理、サービスデザイン、サービスレベル管理
・インシデントの解決と予防(IRP)
インシデント管理、問題管理
・継続(CONT)
サービス継続性管理
・実績と測定の管理(MPM)
測定および報告、可用性管理、サービス財務管理、キャパシティおよびパフォーマンス管理‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
以上です。非常によくできた考え方だと思いますが、SVSとかSVCとかバリューストリームとか似た用語が登場しますので、初めての方はたぶん混乱されると思います。このメルマガでは説明出来なかった箇所の詳細は別途お調べいただくか、また別の機会でご紹介できればと思います。
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<参考書籍>
・ITIL4の教本(翔泳社、最上千佳子氏著)
・ITIL4ファンデーション試験対策(日経BP、武山祐氏著)
・2023年度ALL IN ONEパーフェクトマスター ITサービスマネージャ(TAC出版)