メルマガ
バックナンバー

第157号:評定所見をどう書く?

2017年04月25日

  • 評定所見をどう書く?

    アプレイザルチームに入ったことのある人に聞きたいことがある。アプレイザルのときにどんな所見を書いたであろうか。

    所見は、開発のためのCMMI 1.3版の用語集には次のように定義されている。
    ------------------------------------
    評定所見
    (appraisal findings)
    評定範囲内で、プロセス改善のために最も重要な課題、問題、または機会を特定する、評定の結果のこと。
    ------------------------------------

    所見は改善のための重要なインプットである。何が問題なのか伝わらなければ、改善が間違った方向に進む。

    アプレイザルチームトレーニングのスライドには、次のような所見の例が載っている。
    ------------------------------------
    ・プロジェクトはWBS(または同等のもの)を使用していない。

    ・プロジェクトのWBSに、プロジェクトのタスクや責任やスケジュールの見積もりをサポートできる詳細な情報が無い。

    ・ベーシックユニットの資源とスケジュールの追跡以外の開発活動に対する、管理者のレビューが行なわれていない。

    ・多くのプロセス領域において、ガイダンスとなる文書化された組織方針が存在しない。

    ・アプレイザルを行なったモデルのエリア全般で、開発者に提供されるトレーニングが不足している。
    ------------------------------------

    プラクティスをもとに所見を作成するのは簡単であるが、所見が抽象的すぎると、何のことかわからない。抽象的に書いて、インタビューイがピンと来なければ、予備所見の発表のときに、きっと質問されるであろう。

    説明しなくてはならないようなら、最初から何が問題なのか伝わりやすいようにしたほうがよいだろうと思って、とあるアプレイザルでアプレイザルチームの一員だったときに次のような所見を書いた。

    ------------------------------------
    2016年4月6日付けの品質保証報告書では「組織のトレーニングニーズに対応するため、トレーニングの能力を確立し維持しているか」という評価基準に対し、合否は「合」で、「第40期勉強会スケジュールで確認した。」という所見になっているが、第40期勉強会スケジュールは、要領第16号組織トレーニング標準に規定
    されているアウトプットではない。品質保証報告書が適切に記述されていない。
    ------------------------------------

    上記の事例は、組織トレーニング(OT)のGP 2.9 『プロセスおよび選択された作業成果物の忠実さを、プロセス記述、標準、および手順に照らして客観的に評価し、不遵守事項に取り組む』の弱みである。

    PIIのOT GP 3.1『定義されたプロセスの記述を確立し保守する』のアーティファクトが「要領第16号 組織トレーニング標準」であったので、この文書と品質保証報告書を照らし合わせた。

    「組織のトレーニングニーズに対応するため、トレーニングの能力を確立し維持する」に該当する活動のアウトプットは、第40期勉強会スケジュールではない別のものであった。しかし、品質保証報告書の合否は「合」であった。

    プロセス記述に照らして評価するなら「第40期勉強会スケジュール」はプロセス記述に規定されているアウトプットではないので、品質保証報告書に「第40期勉強会スケジュールで確認した。」とう所見を書くのは適切ではないのでこの所見を書いた。

    この所見はフルチームレビューの結果、次のようになった。

    ------------------------------------
    品質保証の際に、評価基準に対して適切な評価を行っていない部分がある。
    ------------------------------------

    だいぶ要約された。個人やプロジェクトを特定しない範囲で、そこそこ具体的に書いたほうがよいと思っていたが、そのときのリードアプレイザと他のチームメンバは、そう思っていないようであった。

    なんだかぼやけたようになってしまったが、この所見は間違ってはいない。要約したほうがわかりやすいという考えも理解できるので、私はこの所見を受け入れ合意した。

    アプレイザルが終わり、プロセス対応計画が作られた。この弱みに対する改善策は「評価基準に評価すべき作業成果物を明記する」といった内容のものであった。

    数ヶ月後、この組織の品質保証報告書を見る機会があった。「組織のトレーニングニーズに対応するため、トレーニングの能力を確立し維持しているか」という評価基準に評価すべき作業成果物は記述されていなかった。しかし、プロセス対応計画はすべて完了しているという。品質保証報告書をもう一度見ると、別の評価基準に、評価すべき作業成果物が記述されていた。