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第124号:弱い組織でも強くなれる? ~開成高校野球部に学ぶプロセス改善術~

2014年07月25日

  • 弱い組織でも強くなれる? ~開成高校野球部に学ぶプロセス改善術~

    『弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー』という本を読みました。

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    【書名】「弱くても勝てます」: 開成高校野球部のセオリー
       http://tinyurl.com/bceenmj
    【著者】高橋 秀実
    【出版社】新潮社
    【発行】2012年9月28日
    【ISBN】978-4104738045
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    TVドラマ化もされ、今年4~6月に放送していたのでご存知の方も多いと思います。

    読んでいない人向けに簡単に内容をご紹介すると、
    ・毎年200人近くも東大に合格者を出す超進学校として有名な開成高校の野球部が、実は東京都予選のベスト16に残ることもあるほど強いらしく、その野球部が行っているユニークな練習方法や取り組み姿勢を取材ルポ風にまとめたのがこの本。

    ・開成高校は学校のグラウンドが狭く、他の部と共有して利用するため、週に1回2時間しかグラウンドが使えない。練習時間が少ないがゆえに、圧倒的に守備力が低く、下手をするとキャッチボールでさえエラーをするほど。

    ・そんな彼らが勝つために行っている戦略は、打撃力強化。守備力は練習すればするほど精度が上がるが、その時間がないので大崩しない程度のほどほどの守備力があれば良く、その分をひたすら強く振り抜く打撃練習に費やす。10点取られても、一気に15点を取る打撃で「ドサクサにまぎれて大量得点」してコールド勝ちを狙う。イニングが増えればエラーをするリスクが増えるが、コールド勝ちでイニングをなくすことで、そもそもエラーをするリスクを回避する。

    ・打撃は強く振り抜くという方針ができていないと、ヒットを打とうが試合に勝とうが監督は激怒し、ヒットでも振りが小さいと「なんだそのスイングは!」、三振でも思い切り振ると「ナイス空振り!」と褒める。

    という感じで、最初はタイトルに惹かれて何気なく読み始めたのですが、ユーモアのある魅力的な文章と、監督の厳しいけど温かみのある、そして時々可笑しい指導方法に引き込まれて一気に読んでしまいました。

    ネット上ではすでにこの本の様々なレビュー記事が上がっていますので、本メルマガでは、プロセス改善の視点から、彼ら開成高校野球部の取り組みの中で、強い組織となるためのプロセス改善のヒントとなりそうなことをご紹介してみたいと思います。

    1.具体的にイメージできる目標を設定する

    開成高校野球部が掲げる目標は「甲子園出場」ではなく「強豪校の撃破」。
    なぜなら、安定した強さがない彼らは、闇雲に甲子園と言っても実感が伴わないので、具体的イメージを持ちやすい「強豪校を撃破」することを目標にしているとのこと。
    強豪校を撃破していけば、結果として甲子園に行ける、ということだそうです。
     
    プロセス改善においても、最終的なゴールを決めただけでは、そこにどのように辿り着かせるか具体化されていないため、目指すゴールを実現させるためにその途中の中間ゴールを設定することになります。その中間ゴールの積み重ねで最終のゴールを達成させるということです。
    結果系ゴールと要因系ゴールとも言いますが、この場合「甲子園出場」が結果系ゴール、「強豪校撃破」が要因系ゴールですね。
    このように、目指す最終ゴールを達成するためには、より具体的な中間ゴールを設定していくと良いでしょう。

    2.改善ポイントを見いだせるレベルにプロセスを分解

    しっかり時間をとって守備練習を行えば自然と体が覚えていくことも、限られた練習時間しかない場合、そうはいかない。
    そこで、最低限大崩れしない守備力を身につけるために彼らがしていることは、守備の行為を「理屈」で覚えることだそうです。

    どんな理屈かというと、
     ・球を捕る行為には2つの局面がある。1つは「球を追いかける」局面。
      もう1つは「球を捕る局面」。
     ・球を追いかける局面では、球を捕りやすいところに自分が移動する。
      いつまでも追いかけるのではなく、あるタイミングで球を取る局面に切り替える。
     ・球を捕る局面の動作は、常に一定でなければいけない。
      局面の切り替えが重要。切り替えのポイントを正確にすること。
    といったもの。
     
    漠然とその行為全体をとらえるのではなく、確実に成果が出るようにその行為を分解し、基準を定義する。
    出来ていない部分を見なおして、その通り出来るようにしていく。
     
    これはソフトウェア開発においては、作業のプロセスを定義することにあたりますね。
    プロセスを必要な要素レベルに分解して明確にすることで、作業の属人性を低減し、達成度合いを可視化し、改善すべきポイントを明確化することに役立ちます。

    3.仮説と検証を繰り返して成果を出す

    少ない練習時間の中で成果を上げるために彼らが行っている策は、練習を「実験と研究」と思って取り組むことだそうです。
    グラウンドは練習する場ではなく、実験の場として考えること。
     
    あらかじめ各自が持っている課題に対する対策の「仮説」を立て、それをグラウンドで「検証」する。
    例えば「ヒットが打てない」という課題に対して「バットを短く持って振れば、ヒットが打てる」という仮説を立て、それをグラウンドで試して検証するなど。
    結果がでたらそれをフィードバックして次の仮説を立てることに利用する。
    サイクルを回すうちにコツをつかんで体得する。
     
    プロセス改善においても、大きな改善策はまずはパイロット評価し、フィードバックを受けて見直して洗練させていき、効果が確認できたら、全体に展開し、利用していくという流れで行います。改善策の展開をこのようなプロセスで実施していくことで、より早く、より確実に高い成果を出すことが期待できます。

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    今年の夏の予選では、ドラマや本の効果で周囲の期待が強すぎたのか、残念ながら開成高校は初戦敗退だったようです。

    一年ごとに部員の構成が大きく変わる高校の部活動においては、毎年安定した成果を出すのはやはり難しいのでしょう。
    皆さんの組織ではそこまで所属人員が変わることは多くはないとしても、限られたリソースや時間の制約の中で業務を行っていくことはよくあります。
    そんな中でも、確実に目標を達成して成功に結びつけていける組織になれるように、日々工夫して改善に取り組みましょう。

    栄冠があなたの組織に輝きますように。