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第1号:SEPG2004体験記

2004年04月23日

  • SEPG2004体験記

    SEPG2004はフロリダのオーランドで開催されました。関西国際空港から飛行機で12時間、乗り換えてまた3時間と待ち時間も入れると合計約20時間ほどかけての到着です。天気は良く、カラッとしていて、周りにはディズニーワールドやユニバーサルスタジオといった大規模アミューズメントパークがあり、遊びに行くにはとても良い所でした。

    では、印象に残ったセッションやイベントについてです。

    Everything you need to implement CMMI in your Organization - sort of

    これはTeraQuest Metrics社による、CMMIを実装してプロセス改善を行う際の考え方や注意点等を実習を交えて説明するというチュートリアルでした。CMMIのモデルの説明や「標準」「方針」「プロセス」「手順」の違いといった初めてモデルに関係する人が混同しがちな点の説明など、初心者向けのものでした。ちなみにその説明によると上記の各々の定義はこんなふうになります。

    標  準:テンプレートやフォーマットといった、できあがるものがどんな感じなのかを示すもの。
    方  針:大きなレベルでどのようなことをやるか、誰の責任でそれを行うのか、目的、定義などを記述したもの。
    プロセス:製品を作り上げるために、「何を」どんな順番で行っていくかという成り立ち。
    手  順:プロセスの中で一つ一つ「どのように」作業を行うかという成り立ち。

    その他に、改善計画の作り方とかアクションプランは終了基準を決めておくことが大事とか、費用も出さないくせにレベル達成しろと言われてもできないので、経営層を巻き込むことが大事とか、SW-CMMに取組むときにも参考になると思われることが色々と取上げられていました。
    プロセス定義についてはETVXを意識するべきという話しもありました。これは・Entry Criteria:開始基準(そのプロセスを開始するための条件)
    ・Tasks:タスク(そのプロセスで行うべきこと)
    ・Verification:履行検証(そのプロセスが行われていることを確認する方法)
    ・eXit Criteria:終了基準(そのプロセスを終えるための条件)
    をはっきりさせるべきというもので、SW-CMMのイントロコースではあまり触れられていない部分です。

    ちょっと話しがずれるかもしれませんが、イントロコースやコンサルティングを行っていてると、日本の企業では「方針」という考え方はあまりなじんでいないような気がします。本来「方針」というのは、何かの判断をするときの指針となるもので、それを理解していれば細かいやり方は異なっていても方向性や最低限やるべきことはあまりずれないものであり、作業をする人が迷ったときに、判断材料の一つとなるものであると思います。

    たとえばファーストフード店であれば方針として
    ・値段を安く提供する。
    ・注文を受けてから商品を渡すまでの時間をできるだけ短くする。
    等の方針となるでしょうし、高級なレストランであれば
    ・最高の素材を使った料理を出す。
    ・お客様がゆったりとした時間をすごせるようにする。
    といった感じの方針となるでしょう。

    ある材料があったときに、前者であればそれがいかに「安く提供できるか」が、後者であればそれがいかに「おいしく調理できるか」がメニューに取り入れる時のキーポイントとなるでしょう。お店の椅子やテーブルを選ぶときもその観点は全く違ってくるはずです。もっと限定して、「注文を受けてから商品を渡すまでの時間を5分以内とする」という方針にしても良いかもしれません。メニューを決める人も料理を作る人も接客する人も、その5分という時間を目安として行動するはずです。どちらのレストランの方針が良いかということは何とも言えません。強いていえば、本業のビジネスゴールと矛盾していないことが良い方針であるといえるでしょう。

    レベル2で言われていることを実装する際は、組織レベルで「方針」を用意して各プロジェクトはそれに従って手順を決めたり作業を行えばよいはずなのですが、そういった形の実装をするところはあまり無いように感じます。
    プロセス改善というとどうしても分厚い「手順書」を作成し、意味がわからない管理文書を作成することになり、「現場に負荷がかかる」と考える人も非常に多いようです。このあたりをもう少し考えて実践すれば、もっと気軽にできるのではないのかな?と思います(負荷が全く無いとは言えませんが・・・)

    Being a Software Professional

    これはCMMの生みの親の1人でもある、Watts Humphreyさんによるものです。
    彼は業界紙で「ソフトウェアに最も影響を与えた10人の一人」と評されたこともあるぐらいなので、人気があり会場は満員で立ち見の人も出ていました。SW-CMMのイントロコースの教材にも写真がでていますが、実物はそれと比べると年をとられている感じでした。前回のSEPG2003では、別のセッションに参加していて聞けなかったので、今年こそはという意気込みで参加しました。

    彼は今はCMMではなくPSP(Personal Software Process)やTSP(Team Software Process)に力を入れています。これは大雑把に言うと個人が自分がやっていることをしっかりと計測して、どれだけの作業がこなせるのかを理解し、それをベースとしてチームの計画を立てるというものです。彼の言葉を借りれば「個人をCMMレベル5に持っていく」ことになります。
    PSPの研修では。10個のプログラムを作り、1時間あたり何行のソースコードを書いたのか、バグはどこでいくつ発生したのか、それを直すのにどれだけかかったのか、ソースコードN行あたり何個のバグがあったのか等様々なことを計測して、自分の能力に関する様々なデータを取得します。それがその人のパフォーマンスの指標となるので、新しいプログラムを作るときに「そのデータを利用して」作業を見積もることにより、より正確に見積もれるようになるそうです。個人単位でこれを行ったものをチームでまとめていくのがTSPです(もちろん実際は色々と細かい定義はありますが)。彼のデータによれば、TSPを行っているチームはCMMのレベル5の組織よりも障害の発生率が低いそうです。

    彼の話を聞くのは初めてでしたが、その態度や語り口はとても説得力があり、思わずPSPについてもっと調べてみようかな、と思わされてしまいました。
    この後たまたま知り合った米国空軍関連の会社の方とお話したのですが、彼らはTSPを実装しているとのことで、約1時間にわたってお昼ご飯を食べるのも忘れるほど熱くTSPの良さを説明してくれました。彼らのチームでは毎日朝にチーム全員でミーティングを行い、昨日の実績と今日の予定を尋ね、問題があがっていないか、あがっていればそれをどうやってカバーできるか等を入念にチェックするそうです(もちろん各個人がPSPを見に付けていることが前提です)
    組織レベルの改善が会社にそぐわない場合は一度試してみる価値はあるかもしれませんね。

    キーノートプレゼンテーション

    このプレゼンテーションはアメリカで(恐らく)重要な位置をしめている人を招き、IT関連の現状や今後について語ってもらうものです。一日に2人がプレゼンをするのですが、面白かったのはその対比です。トップバッターはBosch社のExecutivevice presidentのDr. Thomas B. Wagnerさん。この方はその国民性か、ドイツのIT産業の推移や自動車におけるITの重要性、自社で取組まれたプロセス活動についてとても真面目に説明して下さいました。その後に出てきたのはWalt Disney Imagineering社のSenior vice presidentのDr.Thomas E. McCannさん。
    カンファレンスがディズニーワールドにすぐ近い場所で行われたこともあり、最先端の技術を使って一大エンターテイメントを作り上げるような話しかと思いきや、プレゼンの約90%までが、ディズニー関連施設の説明でした。いつディズニーランドが出来て、今は世界のどこにあって、会場近くにはどのような施設があって等々。プレゼンの資料も動画が大半という、まさに宣伝のために出てきたようなものでした。ただ、それを見終わった後の私の感想は「ディズニーワールド行ってみようかな・・・」だったので、宣伝のためのプレゼンだったとしたら、結果は大成功だったのでしょうね。。
    ちなみに次の日は米国陸軍の資材購入をやっているKevinn Carollさんと、847時間の宇宙滞在経験があるDr.Jay Aptさんでした。Kevinnさんのプレゼンでは「今回の(アフガニスタン・イラクとの)戦争は以前と比べてeMailが使えて通信がとてもやりやすくなった」とか「予算を今起きている問題に割当てるか、将来への整備に割当てるかというバランスが難しい」といった話しが聞けました。
    (彼のプレゼンテーションはhttp://www.sei.cmu.edu/sepg/main.htmでダウンロードできます)

    Exhibition

    これはプロセス改善に関連する企業がブースを出して自分達の製品やサービスの紹介をするコーナーです。私はここで何か良いツールが無いかと思い色々とまわってみました。いくつかのプロジェクト管理ツールと構成管理ツール、そしてアプレイザル(審査)を行う際にアプレイザルチームメンバーが使うツールといったものがありましたが、これは!というものには出会えませんでした。しかしこういったツールの説明をしている人にはインド人やフランス人といった英語が母国語でない人がとても多かったのは興味深かったです。日本のソフトウェア業界は遅れているということがよく言われますが、単純に遅れているというわけではなく、たとえ良いものを作っても海外に向けての発進力が弱いのではないかと感じました。実際いくつかのソフトのデモを見せてもらいましたが、かなりざっくりとした作りで日本性のアプリケーションに慣れている目からすると粗いものにうつりました(しかし値段は結構するんですよ)。自分達でこういったツールをつくっている方がいらっしゃれば、一度こういった所へ出品してみても良いと思います。ちなみにここで色々な人に名刺を配ったので、このところ毎日次から次へと色々なお知らせメールが届きました・・

    食事について

    カンファレンスには、朝食・昼食がついています。朝はパンとジュースとフルーツが置いてあるので好きなだけ食べます。昼はコース風になっていてサラダ、メイン、デザートをウェイターが持ってきてくれます。と一言で言うのは簡単なのですが実際は参加者全員(2000人弱)が一つの部屋で食事するのでそれはそれは大掛かりなものです。ちなみにSEIに研修を受けに行っても朝食と昼食は含まれています。昼食はともかく朝食は日本ではあまり馴染みがないのですが、アメリカではそういうものなのかもしれません。肝心の料理の味はというと、一言でいって大味です。和食中心の食生活を営んでいる人にはつらい時間になると思います。
    実際私と一緒に行った人も4日目を向かえた頃にはすっかりげっそりとしていました。2日目の夜にはバンドの演奏も交えたパーティーが開催されました。そこでもやはり食事が出るのですが、これもまた何とも言えない味で、食欲は中々満たされませんでした。フルーツは大丈夫かと思いきや、どう考えても生のイモらしきものが混じっていたりして、油断することはできません。ただ口にさえあえば、量は豊富にありますし、セッションの間にもチョコレートやクッキーといったお菓子が出されるので、食費はあまりかからないでしょう。

    他にも面白かったことはたくさんあったのですが、全ては書ききれません。来年は2005年3月7日から10日までアメリカのシアトルで行われる予定です。多少の英語力は必要ですが、色々と学べることは多いと思います。機会があれば是非みなさんも参加してみてはいかがでしょうか?