CMMIには『決定分析と解決』(DAR)というプロセス領域があります。
このプロセス領域の目的は下記のとおりです。
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『決定分析と解決』(DAR)の目的は、特定された選択肢を確立された基準に照ら
して評価する正式評価プロセスを使用して、可能な決定を分析することである。
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重要な課題に対する決定は、誤ると厄介なことになるので、みんなが納得する方法できめたほうがよいです。そのために複数の選択肢の中から、事前に決めておいた評価基準にもとづいて評価しましょう。そのほうがみんなが納得できる解を選択できる確率が高いです。
あとからぐだぐだ言わないように、選択肢や評価基準が不満に思うのであれば、追加したり、変更したりしましょう。評価する前にやっときましょう。
もし選択した結果が誤っていたとしても、誰かが主観的に決めたわけではなく、客観的にそのときの最善の解を選択したわけですから、まあ仕方がないかということになります。
以上のようにDARとは、重要な課題に対する複数の選択肢の中から解を選ぶときに使うものであり、その際は主観性をなるべく排除するために確立された基準と手法を使うというものです。
しかし、世の中にはそんなDARばかりではありません。それはDARではないだろうというものやどう考えてもそこは違うだろうというDARで満ちています。
重大な決定は会議や打合せできめることが多いですが、評価基準が明文化されているケースは少ないです。プロジェクトマネージャの過去実績や好みで提案され決まっていくこともよくあります。
供給者の選定にDARを適用するのは典型的な例とも言えますが、プリンタ用紙やCD-Rをどこから購入するかというのは、DARを適用するには適さないと思います。
どこから買っても品質にばらつきがあるとも思えませんし、価格の安いお店で買うことに誰かが勝手に決めたからといって大問題になったりしないと思います。
こういうのは重要な課題ではないのでDARを使うまでもないです。
出荷判定は、重要な決定ですがDARを使う場ではありません。選択肢の中から最適なものを選ぶというものではないからです。「出荷する」「出荷しない」という2つの選択肢があるではないかという人もいますが、出荷判定の基準は、「出荷する」「出荷しない」という選択肢を評価するわけではありません。成果物を基準に従って評価して、出荷するかしないかを決めているので、DARを適用する場ではありません。
女性社員の制服の選定は、その会社と当事者にとっては重要事項だとは思いますが、評価基準および選択肢があったとしても、これはエンジニアリングの話ではありませんので、DARを適用する場ではありません。CMMIというモデルの使い方を間違っています。
選択の余地がない場合も、DARを使う場ではないと思います。1つの選択肢を文書化された基準にしたがって○とか△とか評価された記録を見せられても困ります。
絶望した!
不適切なDARに満ちた世の中に絶望した!
第52号:決定分析と解決のあいだ
2008年07月25日
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決定分析と解決のあいだ
ブックレビュー
【書名】CMMI 基本と実践
http://tinyurl.com/688dcr
【著者】アクセンチュア
【出版社】ソフトバンククリエイティブ
【発行】2007年11月20日
【ISBN】978-4-7973-4353-3
【本の内容】
第1章 経営におけるITの役割とCMMIの適用効果
・経営におけるITの役割
・CMMIの適用効果
第2章 CMMI実践編-プロセス改善推進
・プロセス改善推進計画
・プロセス改善推進体制の構築
・改善活動の基盤
・教育・啓蒙活動
・モニタリング活動-アセスメントプラン
・プロセス改善推進活動の実施
第3章 プロジェクトタイプ別ケーススタディ
・大規模システム開発プロジェクト
・アプリケーションアウトソーシングプロジェクト
・小規模メンテナンスプロジェクト
・ベンダー開発が中心のプロジェクト
第4章 超訳!プロセス改善
・プロジェクト管理
・エンジニアリング
・支援
・プロセス管理
・共通ゴールと共通プラクティス
【レビュー】
『開発のためのCMMI』を読んだけど抽象的すぎてわからないと思った人にとって本書はきっと役に立つでしょう。本書だけを読んでもCMMIを理解することは難しいと思いますが、CMMIに挫折した人にとっては本書はわかりやすいのではないでしょうか。
『開発のためのCMMI』を読んでも、SEIのCMMI入門コースを受講しても、CMMIを導入するためにSEPGは具体的に何をしたらよいのかわからないと思います。本書の2章には、それが比較的詳細に記述されています。これでSEPGの活動の全貌がだいたいイメージすることができるのではないでしょうか。でも気をつけていただきたいのは、ここに記述されていることは一例にすぎないということです。必ずこうやるべきというものではありませんので、SEPGはこういうことをやるのかと参考にしながら、自分達の組織にふさわしいスタイルで改善活動をやっていってください。
第3章のケーススタディは、エンプラ系の事例ばかりで、組込み系はありません。
CMMIは難しいという話をよく聞きます。特に翻訳版は日本の文字を使っているけど日本語で書かれているとは思えないぐらい難解だと言っている人もいました。
そんな方には第4章の超訳!が役に立つことでしょう。『開発のためのCMMI』よりは具体的に書かれてますので、各プロセス領域がどういうことを扱っているのか良く分かると思います。
高成熟度の事例はありませんけど、CMMIを導入し始めたばかりという組織でSEPGを任された方にはお奨めです。『開発のためのCMMI』を読んで挫折した方は、本書を読んでから、『開発のためのCMMI』を読み直すとよく理解できるのはないでしょうか。