D-column

#9 : 農家さんの昔話シリーズ~あの頃の日本 vol.1~

2024年08月06日

  • 連日の猛暑が続いています。毎年のように「平年を超える」という表現を耳にするたびに、「平年」とは一体何なのかと調べてしまうほどです。

    さて、今回のコラムはいつもとは趣向を変えて、私が普段お世話になっている農家さんたちの昔話から、特に興味深いものをピックアップしてご紹介します。

    ご存じの通り、農業の世界では高齢化が進んでいます。しかし、普段から体を動かし頭を使う農家さんたちは元気な方が多く、私たちと一緒に活動している近藤さんを含め、80歳を超えても現役で活躍している方々がたくさんいます。

    そんな方々が若者だったころ、今から約50年~70年前の話を聞くと、本当に同じ日本なのかと驚かされることばかりです。

    今回は、弊社と長いお付き合いのある近藤さん(82歳)の昔話シリーズから、特に興味深いエピソードをお届けします。

    近藤さんは袋井市大野で生まれ育ち、この82年間を同じ地域で過ごしてきました。今回のエピソードは、近藤さんが過ごした地域での出来事です。

  • ※写真は最近撮影した近藤さんの後ろ姿です。

    石投げ


    集落のみんなと夜に集まって近所の川にかかる橋に移動します。橋の反対側には隣の集落の人たちが集まっており、橋の両端に集まった10~15名が敵味方に分かれて石を投げ合ったそうです。今から考えると意味がわかりませんが、それが遊びだったらしく、集落の番長のような人から声がかかると、みんなで夜(暗くなってから)行ったと仰っていました。
    近藤さんと同世代の方で上流に住んでいる方に石投げについて確認したところ、上流でも同様に投げていたとのことで、当時は上流から下流までみんな石投げをしていたようです。

    海のアカミ


    近藤さんが子供のころ、まだ半農半漁で生活をしており、稲作・畑作を行いながら地引も行っていた頃の話です。今でいう自治会の役職のような形式で「船頭」と呼ばれる役職が集落内に設定されていました。船頭は指定されたタイミングで海にアカミが入っているか見に行く役職です。
    海にアカミが入っているのを確認したら、声(ほーいほーい)を上げて歩きながら集落の人を砂浜に集め、地引を行ったそうです。皆さんも私同様「アカミとは何ぞや」と思っているはずです。近藤さんに確認したところ、どうやら海の沖に出る潮目の色のことだそうで、アカミが入っていれば地引で魚がたくさん取れたらしいです。
    若者だった頃の近藤さんにも判別が難しく、「あそこに見えるじゃないか」と言われてもよくわからなかったと仰っていました。船頭が海を見に行くタイミングは近藤さんの親世代であれば長年の経験と勘である程度判定できていたそうで、そういった方々の判断でアカミを確認しに行くとのことです。
    今ではもちろん、生き物の量も随分違うようで、アカミという単語と共に失われた技術になっているかもしれません。このアカミを確認しての地引は、少なくとも近藤さんが22~23歳くらいまでは行われていたそうです。

    お風呂


    当時、近藤さんの集落ではお風呂を持っている家は3~4軒に1軒しかなく、お風呂のない家の人たちはお風呂がある家に入らせてもらっていたようです。近藤さんの家にはお風呂があったため、毎日3~4人は誰かがお風呂に入りに来ていたそうです。
    当時のお風呂は木桶で作られたいわゆる五右衛門風呂で、2~3名が入るのが限界のサイズだったようです。土間の隅にあり、仕切りも何もなく、みんな丸見えでお風呂に入っていた記憶があると仰っていました。今では考えられない状況ですね。
    木桶で作られたお風呂だったので水漏れすることもあり、父親がすき間に縄を詰めたりしているのを見たと仰っていました。このお風呂には洗い場もなく、どうやって体を洗っていたのか聞いたところ、お風呂の中で体をこすっていたようです。

    お風呂の水は井戸や川から汲んでくる必要がありました。重労働だったので3~4日は同じ水を利用しており、近隣の人たちを含め一日に10数名が利用することから、最終日には体に「沼」のようなものがついたりして、綺麗になっているのか汚れているのかわからないまま入っていたらしいです。
    ※「沼」は近藤さんがそのように表現されていました。
    お風呂を沸かすのは子供の仕事で、学校から帰ってきたら火を入れていたとのことです。冬など途中でぬるくなった場合は、「ひとくべ入れてくれ」と言われ、そこら辺に置いていた廃材や草木を入れて燃やしたそうです。




    今回のコラムでは近藤さんから聞いたエピソードを集めてみました。

    皆さんも周りに古株がいるのであれば、話は聞けるうちに聞いてみてください。
    誰もが皆、昔は若かったので案外面白い話が聞けると思います。

    「vol.2」ではメロンに関する昔話をお伝えできたらと考えています。
    お楽しみに。

    [K.T.]